そして、本番-9
「何が違うんだよ! オレと付き合っていながら他の男とハメ撮りしようとしてただろうが!」
「…………」
萎縮してしまい、すっかりなにも言えなくなった田所さんの前で、ツトムくんは自虐的に笑った。
「もういいや。結局千鶴は、オレ以外の男ともヤれる軽い女だったんだろ? そういう淫乱女はオレ、マジ無理だから」
「ツトム……違……」
「今更言い訳なんて聞きたかねえよ。……もう別れよ」
ツトムくんの腕にしがみつこうとする田所さんの手を、彼は思いっきり振りほどく。
その刹那、田所さんの泣き叫ぶ声がスタジオに響き渡った。
「違うの! ツトム! お願い話を聞いて!!」
振りほどかれても必死で食らいつく田所さんを見て、思わず身を乗り出しかけるけど、
「……ダメです」
傳田の飾らなくもしなやかな手が、俺の腕を掴んで動きを止めた。
「おい、まずいだろこれは。確かに彼氏にこの撮影のことを知らせろって言ったのは俺だけど」
そう、田所さんと面談したあの日。
彼女が帰ってから、俺は傳田に頼み事をしたのである。
それは、田所さんの彼氏にこの撮影をすることを知らせること。
色んな女を抱いてきたからわかるのだ。
単にセックスという行為が好きなだけの女。本当は好きな男にしか抱かれたくないが、仕事のために無理矢理抱かれる女。
前者ならば、処女だろうが構わずヤっている。
だけど、後者の場合は愛のないセックスにそんな器用に割り切れない娘が多い。
AV女優だって、後者のような真面目な女の子だってたくさんいる。
もちろんAV女優という仕事に誇りをもって働く娘も多いわけだが、愛のないセックスに精神を蝕まれてしまう娘がいるのも事実なのだ。
そして、そういう娘は得てして後者のタイプが圧倒的に多い。
AV女優だって人間だ。恋だってするだろう?
そしていざ大事な存在が出来たとき、仕事とは言え愛のないセックスを重ねることを続けていると自分を汚いものにしか思えなくなってくる。
AV女優に自殺する娘が多いのは、これが原因なんじゃないか?
真相は、命を絶った彼女らにしかわからないけど、因果関係は全くないとは言い切れないと思う。