そして、本番-3
パンッ。
突然目の前で手を叩かれるから、驚いて身体が跳ねた。
見ると、傳田が黒縁眼鏡のつるをつまみ上げながら、相変わらずの鋭い眼光でこちらを見つめていた。
「社長、撮影の時まで妄想の世界に飛ばないで下さい」
にべもなく言い放つ彼女の言葉にようやく現実に戻ってきた。
「社長は妄想好きだもんな」
一段落ついたらしく、カメリハを今までやっていた井出達が、そんな俺達の掛け合いに笑いながら集まってきた。
「まったく、散々エロいことを仕事にしてきて、これ以上何を妄想すんだよ」
そう笑うのは、井出。
「いやいや、今日のお客さんが可愛いから今からどんなエロいことしようか頭の中で考えてるんだろ?」
茶化すように、俺を指差すのは多田。
「いや、そんなことしなくともずん田ピストンを披露すれば、処女でもあっという間に昇天ですよ」
そう言って、目をキラキラ輝かせながら尊敬の眼差しを向けるのは、取手。
いやいや、妄想なんかじゃなく、あれは回想……。
そう言い訳しかけて、自分に苦笑いになる。
他人の目から見れば、俺が回想しようが妄想しようが関係ないわけで、アホ面下げてボケッとしていた、それだけが事実なのだ。
「わりい、今日のお客さんが可愛いからちょっとイメトレしてたんだ」
「さすが社長! いつも全力投球ですね」
俺のファンである取手が無邪気にはしゃぐから、少しバツが悪くなる。
いかんいかん、気持ちを切り替えねば!
プルプル頭を振って、頬を軽く叩いた俺は、ようやっと意識を仕事モードに移した。