そして、本番-2
「田所様、スタジオ入ります」
落ち着いたトーンの滑らかな声が、ノックと共に飛び込んで来る。
先にドアを開けて入ってきたのは、傳田だ。
細身のデニムに少しふんわりとした白いシャツ。
さらには無造作に束ねた髪に眼鏡姿という、ラフな格好の彼女は、いつものセクシー秘書とはうって変わってスタイリストモードになっている。
エロい秘書モードの傳田もいいが、こういうラフな感じもどことなくエロくてグッと来るんだよなあ。
なんて鼻の下を掻きながら、傳田をジロジロ眺めていたら、
「社長、何アホ面してんですか。田所様入られます」
と、すかさず鋭い眼光で睨み付けられてしまった。
まったく、コイツは恐い……。
せっかくのいい女なのに、このキツさが災いしてか、傳田には男っ気がないそうだ。
こんだけ美人なら、高スペックの男を見つけて、イージーモードな人生を送れるはずなのに、当の本人はそんな素振りさえ見せない。
あげく「男なんていらない」とまで言う始末。
そんな風に男嫌いに徹されると、このおっさんは君の行く末が心配になってくるのだよ。
そりゃ、傳田はしっかりしているし、秘書もスタイリスト業も(時には小道具まで)完璧にこなしてくれるから、大事な戦力だ。
だけど彼女はまだ24歳。女として一番輝いている年代であるのも事実。
保護者的目線で言えば、こんないかがわしい会社じゃなく、もっとまっとうな仕事に就いて、普通の幸せを手に入れて欲しいという思いは、ある。
戦力を失うのは痛いけど、断腸の思いで転職を勧めたことは何度もあった。
だけどそう言うたびに、傳田は決まって、
「社長は、私を路頭に迷わせたいんですか?」
と、あのキツい猫みたいな眼差しで凄まれるだけ。
でも、そうやって睨まれるとちょっぴり安堵してしまう。
もしや、俺ってば……M?