再び-5
無いよりはまし、という程度だが、正に『無いよりはまし』なのだ。
「ほれ。ついた」
「わ♪」
リモコンの操作を教えてやると、人差し指1本でポチポチする姿が可愛い。
画面には娯楽番組が流れており、嬉々としてそれを眺める。
「不思議ですねぇ〜」
薄型の板の向こうを覗いたり、リモコンを掲げ見たりして首を傾げるリョウツゥにジルはクスクス笑った。
「また馬鹿にしてますね?」
「またって言うけど馬鹿にした事ねぇって」
ひと仕事終えてベットにもたれたジルは、テーブルに置いてある葡萄をひと粒取って口に入れる。
テレビ画面では似たような実を口にくわえた緑の民が映っていた。
「わ。チコリだ。懐かしい」
「チコリ?」
「はい。緑の地域では一般的ですがクアトリアには無いんです。植物園のもまだ実を結ぶ程大きくないし」
「美味いのか?」
「葡萄に似てますけど、もうちょっと酸味が強いですね」
「ふーん」
葡萄を食べながら画面を見ていると、緑の民の男性がチコリの実を女性の緑の民に口移しで与えていた。
「わわっ」
それを見たリョウツゥは何故か真っ赤な顔を手で覆いつつも、指の間から画面をガン見している。
「何?」
「あ、その、口移しって、緑の民的に求愛になるので……」
他人の事ながら恥ずかしいが、目が離せない。
「ふーん♪」
ジルはニヤニヤして葡萄をくわえた。
「ん♪」
「へ?」
ジルの声に振り向いたリョウツゥは、葡萄を口にくわえて嬉しそうに突き出しているジルの姿が見えた。
「え?え?」
「ん♪」
ホレホレ、とジルが更に口を突き出すとリョウツゥは画面とジルを見比べる。
「え?まさか……」
ジルのしたい事が分かったリョウツゥは、ぼんっと爆発する。
「しょ、正気ですか?!」
コクコク頷くと、リョウツゥはぶんぶんと首を横に振った。
「だ、ダメですっ!こういうのは冗談とかでやる事じゃっ!!そりゃ、子供とかが大人の真似してやる事もありますけどっ!」
ジリジリと後ずさるリョウツゥに眉を潜めたジルは、尻尾を振って軽く飛びかかった。
「わきゃあっ」
呆気なく押し倒されたリョウツゥは、顎を掴まれて前を向かされる。