出会い-3
「困ったわ。傘を持っていなくて」
「俺もです。でも、駅まで走ればそんなに距離はないから」
「そうね」
女も椅子から立ち上がった。背もたれにかけたジャケットを羽織ると、柔らかそうな革のバッグを肩にかけた。
「君はどこまで?」
「私はタクシーを拾うわ」
「じゃあ、タクシー乗り場まで送ります。ご馳走になったお礼に」
「あら、いいのよ」
見ると彼女の足元は、折れてしまいそうな細いピンヒールだった。これでは駅まで走れない。
扉を開けて驚いた。
駅まで走れる降り方ではない。土砂降りだ。たちまち足元が濡れる。少しだけ怯んだように彼女が夜空を見上げた。
「とりあえず行きましょう」
「そうね。扉の前に立っていても止まないものね」
たちまち頭から濡れて行く。彼女に合わせて小走りでは、タクシー乗り場までにびしょ濡れになってしまう。
なんとか乗り場まで来たものの、案の定タクシーを待つ人が列をなしていた。
「電車ならまだ動いてますよ。駅まで行きますか?」
「私はタクシーの方が早いの。どうぞ、行ってください」
彼女もすでに髪から雫が滴っている。
そのまま帰ることもできた。
俺の足なら駅まで5〜6分だ。しかし、この雨の中、女を一人置いてくのは。
いや、違う。
雨に濡れた彼女が美しかったのだ。
俺は上着を脱いで彼女の頭からかけてやった。もっと早くしてあげるべきだった。
「ありがとう」
そう言って俺を見ると、そのまま唇を重ねて来た。
しっとりとした唇は柔らかく、温かかった。
タオルで髪を拭いている俺の背後でシャワーの音がしている。
週末のこの雨で、危うくホテルも満室になるところだった。
こんな話は映画やドラマの中だけだと思っていた。バーで知り合った女と、その日のうちに寝ることになるなんて。
変な夢でも見ているんじゃないだろうか。冷蔵庫から水を取り出すと喉に流し込んだ。
「お先に」
彼女がバスローブを羽織り、髪にタオルを巻いた姿で部屋に戻って来た。
目のやり場に困り、俺はあいまいに頷くと入れ違いにシャワーを使いに行った。
ベッドサイドのライトに、彼女の体が浮き上がって見えた。
髪はまだ濡れたままだ。
キスをすると、彼女は素直に俺の舌を受け入れた。
久しぶりのセックスだった。社内恋愛の彼女とは最近うまくいっていなかった。
張りのある乳房を揉むと、乳首は敏感になっていた。ディープキスを交わしながら、乳首をつまみ指先で愛撫する。
この女も男と寝るのは久しぶりなのか。
俺の激しいキスを受け入れ、自分から舌を差し込んで来た。
唇を離すと、彼女は下からしっかりと俺の顔を見つめ返して来た。酔った勢いでないことは確かだ。
俺は彼女の乳房をゆっくりと揉み、乳首を舌の先で弾くように刺激した。
う……
彼女の口から声が漏れる。
舌の先で乳首の周りを滑るように舐め、口に含んで吸った。
あ、ああ……
彼女は俺の頭を抱くように快感の声を上げた。