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トーキョーJane Doe
【女性向け 官能小説】

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出会い-2

「いらっしゃいませ」

中はカウンターだけだった。
中年のバーテンと、奥でグラスを磨く若い男の二人。
金曜だと言うのにカウンターの奥に女が一人、中ほどに中年のカップルが一組だけだ。
いや、金曜の夜だからこそ、カウンターに座る「お一人様」は少ないのかも知れない。
「何を差し上げましょう」
「ジャックダニエルをロックで」
「かしこまりました」
よく磨かれたグラスに、透き通った氷をひとかけら。トクトクと小気味良い音を立てて褐色の液体が中ほどまで注がれる。
「お待たせいたしました」

ゆっくりと口に含むと、苦味とそして少しばかり甘味を感じた。飲み込むと、芳香が鼻を抜けて行く。
ふー、と息を吐いた。
適度な音量で音楽が流れている。ジャズだろうが、俺は詳しくないのでわからない。隣のカップルも、場をわきまえて至極低い声で会話をしている。
思った以上に心地よかった。
上着のポケットからタバコを出し、火をつけようとライターを探したがみつからない。
まただ。会社の喫煙室かランチを食った店に置いて来たのだろう。どうせ100円ライターだ。
ライターを借りようと顔を上げると、隣に人が座る気配がして横を見た。

「どうぞ」
女が−−−奥に座っていた女だ−−−ライターを差し出していた。飲み屋の女のように火をつけてくれるわけでもなく、シルバーに光る細身のライターをこちらに向けていた。
「ありがとう」
火をつけて女に返した。
「ここ、いいですか?」
隣に座ってもいいか、と言う意味らしい。
「どうぞ」
「マスター、同じものをお代わり。こちらにもね」
「かしこまりました」
心得たように、バーテンは頷いた。
シェイカーを振り、女の目の前でカクテルグラスに注ぐと「お待たせいたしました」とカウンターに置いた。俺の前にはジャックダニエルがあった。
少し酔った頭で見ていると、この洒落た空間が映画のようだった。
女の横顔は長い髪に隠れてよく見えない。20代後半か、30代くらいだろう。白いブラウスに黒いスカートを合わせている。髪の間から、ピアスが光って見えた。
横に座っておいて、女はなにも話しかけて来なかった。俺も何を話していいかわからず、黙ってグラスを口に運んだ。

カップルが会計を済ませ、店を出て行こうとしたが扉を開けたところで
「雨」と言った。「傘がない」「タクシーを拾おう」と話している。
雨か。そんな予報だったかな。くそ、傘なんて俺も持っていない。
時計を見るとすでに23時を回っていた。会社を出たのが22時過ぎだったから、小一時間いたことになる。
ちょうどいい。まだ電車は動いている。

「ごちそうさま」
そう言って財布を出した。
「もうこちらのお客様から代金はいただいております」
「え。いや、しかし」
女は俺の方を見て、微笑んだ。


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