たぎる-4
(4)
理性はあった。崩れてはいない。
(二度とあやまちを犯してはいけない。そして、隙を見せてはいけない……)
希薄な罪の意識を戒めるように何度も自分に言い聞かせた。
寝る時は部屋のドアに鍵をかけた。もし正彦が忍んで来たら、施錠が何を意味するか察するだろう。
起こってしまったことは消すことはできない。
(何もなかったことにする……)
それがいい。そうするべきことなのだ。そうして時の流れの中にあの出来事が埋もれてしまうのを待つしかない。
変わらぬ日常が過ぎていき、木綿子の気持ちも少しずつ落ち着きが戻ってきた。
とはいえ、事は深刻な事態である。簡単に消え失せるわけはない。小さな葛藤と、時に女肉の疼きに苛まれたが指を夫の一物に仮想して狂ったように駆け昇った。
そんなある日のことである。夕食を終え、後片付けを済ませるとテレビを観ている子供たちに勉強を促して先に風呂へ入った。いつもならサスペンスドラマを観てから子供のあとに入るのだが、この日はいつにも増して潤い続けていて泉は指を欲しがっていた。
(ゆっくりと、時間をかけて……そして、イキたい……)
風呂から出ると子供たちはすでに部屋に引きあげていた。
(お酒を飲もうか……)
ふだん一人で飲むことはないが、今夜は体をもっと熱くしたくなった。
(あら……)
ソファの隅に紗枝のケータイがあった。
(忘れてる……)
しょっちゅう友達とメールのやり取りをして手放さないのに、珍しい。
(すぐに取りに来るだろう)
そう思って残り物の日本酒を一口飲んで着信の点滅が目に入った。
(持って行ってやるか……)
ケータイを持って階段を昇り、途中で足を止めたのは、かすかに聴こえた声に異常を感じたからである。
(なにかしら?……)
耳をそばだて、忍び足で昇っていった。無意識に潜むように身を屈めたのは、『その声』に淫靡な抑揚を感じたからだった。
(紗枝……)
体が急激に昂奮してきた。ドアの前まで行った時には耳に響くほどの激しい動悸になっていた。
「あう……だめよ。お母さんまだ起きてる」
「ちょっと舐めるだけ」
「だってまだ洗ってないよ」
「いいから。……すっごい濡れてるよ」
「あーん。感じてるもん」
…………
木綿子の思考は停止し、間もなく鈍く動き始めた。
(正彦と、紗枝が……)
事態を受け止めるも何もない。いまドアの向こうで2人はセックスをしている。
(紗枝だったのか……)
いつから、こんなことを……。姉弟ではないか……。考えて、息が詰まった。
(自分だって、正彦と……)
状況がどうあれ、迎えてしまった。
息子と娘、母親と息子が肉体を絡め合った。
(どうしたらいいの?……)
慌てて後ずさりして階段を降りたのは紗枝の声がはっきり聴こえたからだった。
「やっぱりお風呂入ってくるよ。それからゆっくりしよ。まさくんのも舐めたいし」
「うん。お母さん、もう出たかな」
「見てくる」
部屋に戻ってしばらく、動悸がおさまらなかった。
間もなくかすかな足音がして、やがてシャワーを使う音が聴こえた。紗枝だ。……
(洗っている……正彦のために……)
頭は混乱していた。しかしその混乱は娘と息子がセックスをしていたというショックだけではなかった。やがて異様な感情の歪みとともに自覚したのは嫉妬であった。否定しても振り払っても、蛭のようにへばりついた紗枝という『女』に向けられた嫉妬があった。
信じられなかった。子供たちの異常な関係を何とかしなければならないのに、
(あたし、どうかしている……)
頭の片隅で必死に自分を見つめようとしながら膨らむ邪念を制御できなかった。こんな屈折した想い流されるのは、やはり、
(血だ……)
もし正彦が自分の子だったら受け入れはしなかっただろう。そして、紗枝が実の子でなかったら、嫉妬ではなく憎悪に燃えたにちがいない。
(血が、そうさせたのか……)
異質の血を本能的に嗅ぎ分けて惹きつけ合ったのだろうか。
2人がどんな切っ掛けで体の関係をもつようになったのかは分かり得ないし、問いただす術も浮かばない。倫理を説くなんて出来っこない。自分も正彦を受け入れてしまったのだから。……夫にも相談できない。収拾に動くことは逆に家族の崩壊を意味する。……
身動きの取れない状況の中で、木綿子は脈動するほどの体の疼きに戸惑っていた。
紗枝が風呂から出て2階へあがっていく。入れ換わりに正彦が降りてきて風呂場に入った。シャワーの音。……
(ああ……洗ってる……)
自分を貫いたあのペニスは何度も紗枝の蜜に塗れ、女肉を抉ったのだ。そのことが頭を巡り木綿子は狂おしくなって乱暴に女穴に指を差した。
(うう!)
忘れようと努めていた若い肉感が甦ってきて指がペニスとなった。
(正彦!)
指は蜜壺をかき回し、やがて女体は極限の弓なりに反りかえった。