奪い去られた国宝、そして愛する女性-1
「そこまでだ、黄色い猿たちよ…それ以上動くと、この娘の命は保証しない」
高圧的な独特のアクセントを持った日本語を操るその男は、詩織の首を捕えた鞭をクイクイと引き締めながら薫たちを威嚇する。
「う、ううッ、く、苦しい…」
詩織の美貌が激しく歪む。
「や、やめろぉ!!」
恋焦がれる女の危機に身体の方が先に反応した薫は、ウエーブした長い金髪に冷酷な青い瞳を湛える男に殴りかかる。しかし、男は蚊でも打ち払うように薫の顔面を殴打し床に叩き付けた。
「は、速水く…ん うぅ…」
苦しみながらも、薫を案じる詩織。
「哀れなる汚らわしい虫けらどもよ…聞くが良い 私の名はプルートン 我らジェノサイドは優良なる人種以外の存在を認めない 日本人はこれから我らの忠実なる僕となるべく、死の裁判にかけられることとなる」
「…死の裁判だと?」
極度の選民思想を持ったプルートンに、憎しみに近い感情を込める薫。
「貴様たち愚民のなかで、生存権を与えてやるためのテストをしようという事だ 近い将来、この帝都は厄難に苛まれるであろう その手始めに我らはこの三種の神器が必要というわけだ」
プルートンは分厚いショーウインドウのガラスを叩き割ると、八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣の三つを髑髏マスク達に運び出すことを命じる。
「あッ、あぁ… さ、三種の神器を盗まれてはダメよ…そんなことになれば…帝都は… う、うう…」
詩織は美貌を苦悶に歪ませながら、絞り出すように言う。
「ククク…小娘、お前はどうやらこの秘宝に関する秘密を熟知しているようだな 一緒に来てもらおうか」
プルートンが残忍に笑う。詩織に巻き付いた鞭にバチバチと電流が流れた。
「きゃああああぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!」
悲痛の叫びとともに意識を失った詩織を軽々と抱き上げると、髑髏マスク達を従え、撤収を図るプルートン。
「し、詩織ちゃん!!」
何とか追いすがろうと立ち上がる薫。
「せ、生存権を与えるだと? ふざけたことをぬかすんじゃねえよ!! 黄色い猿がテメェたちの言うなりになると思うな 絶対にその陰謀打ち砕いてやる その子を返せ!!」
その顔面に模したプルートンの鞭が飛ぶ。数メートル吹き飛び、壁に叩きつけられた薫を嘲笑うユダ。
「小娘ひとり守れないお前が、我らの前に立ちはだかるなど千年早いわ!!」
高らかな嗤い声を残し、謎の秘宝三種の神器と愛する乙女を略奪し飛び去る悪の権化たち。その様子を薄れゆく意識の中で見つめるしかない薫だった。