奪い去られた国宝、そして愛する女性-2
その夜、神田の街は少しだけ落ち着きを取り戻していた。祐樹と美緒が経営する喫茶グアテマラで、薫はがっくりと肩を落としていた。そんな薫の腫れ上がった頬に外傷薬を思いっきり塗ったくる美緒。
「ほぉ〜〜ら、しっかりしろ 薫!!」
美緒も祐樹同様、幼馴染で遠慮のない竹馬の友だ。ボーイッシュでなかなか可愛い容姿なのだが、気性はかなり荒く、従ってすることも手荒だ。
「こんな傷くらい、唾でもつけてこすっとけば治るって」
だが、薫にとっては奥歯が数本折れて頬が腫れ上がった怪我の痛みよりも、想いを寄せていた詩織を守れなかったことに落胆し、己の無力さを感じているのだ。それを目の当たりにしている祐樹も美緒も接し方こそ対照的だが、薫を想い遣り、詩織を案じているのだ。同時に、三人とも奪い去られた三種の神器がどんな意味を持つものなのかにも、にわかに関心を持ち始めていた。
「いらっしゃいませ」
来客を迎える祐樹の声に入り口を振り返ると、考古学者岡崎順一郎が立っていた。
「おお…君はさっきの記者さんだったかね?」
丸淵の大きな眼鏡を押し上げながら、どこかユーモラスな口調で近づいてくる考古学者。
「三種の神器が持ち去られた…これは帝都にとって、いや日本にとって大きな危機だ」
岡崎はウインナコーヒーを注文すると、誰にともなく独り言ちる。
(そういえば、詩織ちゃんもそんなことを言っていたな)
「先生…あの三種の神器にはどんな秘密が隠されているんですか?」
三人は岡崎に一斉に水を向けた。
「これは国を揺るがす秘密事項だ 心して聞いて欲しい」
薫も、祐樹も美緒も固唾を飲んで学者の顏をのぞき込む。