恋人にしたい-11
「どうして?・・・こんな?・・・」
ようやく口を開くと「たいへん!血が出てるじゃない。」
真上の棘に足を引っ掛けたみたいでそこは冷たく疼いた。
「お医者さんに行かないと・・・」
「いいです。ごめんなさい・・・」
血が出てぬるりとした感触は分かったけど、今の僕には怪我の様子をみる事すらできずにいた。
靴を片方脱いで玄関から、このまま出してもらおうと思った。
もう片方は滑り落ちた際、外側に脱げてしまっている。
もう、なにもかも台無しだ。二度と彼女には会えない。
傷はあとで何とかする。ここから病院に運ばれると母親に何といいわけすべきか分からない。
それよりも先にこのかずささんにどう言って謝ればよいものかを巡らせた。
「ちょっと、そんな傷でどこいくのよ!」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「いいから見せてみなさい」と部屋の中に連れ戻される。
そのまま、詫びる言葉もみつけられず行き場もなく立ち去ることに僕は何だか・・・
男の哀しさのようなものを背負い込んでいた。
傷はそれほどたいした事はなかった。
弧を描いて20センチほども引っかいたけれど、これがもっと短いものだったらそれだけ深く突き刺さっていたという事になる。
かずささんは消毒を施してくれて、包帯がないからと生理用のナプキンを貼りつけバンダナで巻いてくれた。
僕はその間に胸の中に蠢く、今日に至るまでのすべての事を打ち明けた。
「今は・・・セックスしてないから、僕のプロポーズ受けてくれますか?」
「何いってるの?私、もう32よ・・・だけど、キミにちょっかいかけたのは悪かったわ。」
「僕は初めて会った時からかずささんを好きになりました。それだけじゃ、ダメですか?」
その時、ピンポンと玄関のチャイムが鳴る。
さっきの彼がまた戻ってきたのかと僕は思った。
玄関先に警察官がふたり来て、さっき駐車場に入って来た初老のおじさんも付いて来ている。
「ちがうんですよ!弟がイタズラしようとして、ケガしちゃったんですぅ。」
かずささんがそう言ってるのが聞こえた。
僕は恋人でなく、「弟」なんだ・・・
何気に覗き込んだクズカゴの中には血を拭ったティッシュや生理用ナプキンから剥がしたテープの他に・・・
精液を溜め込んだばかりのゴムが捨ててあるのを僕は見てしまった。
「ヤリたいばかりの年頃に見えたから・・・それじゃ、ダメかしら?」
警察官を追い払って、もどった彼女はお尻を踵に乗せた中腰の状態で一息ふぅとつくと、僕に問い返す。
オトナはズルいと思った。
僕の真面目な気持ちに本当の事を問い返して答えるなんて・・・
たしかに、僕がかずささんの恋人になりたいという気持ちは毎日でもセックスしたいという気持ちが半分以上を占めているのかも知れない。
答えに詰まって下を向いたきりの僕にかずささんは顔を近づけてキスした。
「傷つけちゃったわね。きっと・・ごめんね、こんな抱きしめ方しかできなくて・・・」
彼女は僕の顔をふたつの手のひらに包み、それはまるで向こうを向かせないような仕草でのしかかる。
ぴちゃ・・っという音をたてながら、互いの舌と舌を絡ませあうが僕はその時でもかずささんを見つめていたくて瞳をひらいたままだった。