greenroom talk〜楽屋話-3
「でも、あの台本の中に一つだけ、俺自身の真実が語られてるセリフがあるんだよ」龍はにこにこしながら言った。
「真実?」
「そ」
「どれだと思う? しゅうちゃん」真雪は丸まった台本を修平に手渡した。
修平はその台本のページをめくりながらしばらく考えて、おもむろに顔を上げた。「わかった! これだ! 『初めて君を見た時から、僕は君の虜だったんだよ』だな?」
「ぴんぽーん!」「大正解!」
「相変わらずラブラブだな、おまえら」修平は呆れたように笑って、コーヒーカップを口に運んだ。
「でもね、」龍が言った。「あの話、エンディングが予定の台本と違ってたんだよ」
「違ってた?」修平がカップから口を離して目を上げた。
「うん。本当は最後、真雪は床に泣き崩れるってことになってた」
「なんでそうしなかったんだ? 真雪」
「さて問題です」真雪がにこにこしながら言った。「最後のシーンであたしがナイフを手に持ったまま考えていたことは何でしょう」
「そりゃあ、おまえ、そのナイフで次、またやってきた鷹匠を刺して復讐しようってつもりだったんじゃねえのか?」
「龍は?」
「うーん……。もしかしたら鷹匠の身体が忘れられなくなって、龍を亡き者にして鷹匠といっしょになろうって思ってたりして……」
「神父尊さんは?」
神父尊は困ったように口を開いた。「真雪ちゃんが自分のやったことの罪深さを悔いて、自分の胸にナイフを突き立てる……なんてね」
「みんな不正解」真雪が言った。「あたしね、あの時、うさぎのウーバちゃんにあげるにんじんを切るのに、丁度いいナイフだな、って思ってたんだ」
「なんじゃそりゃー!」三人の男はひっくり返った。
――the End
脱稿 2015,5,15
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