ノースポールは風に揺れ(2)-1
それはきっと、私が初めて見た佳那汰君の顔だった。
「こうせいちゃんから離れろ!」
いつも柔らかな笑みを絶やさないその顔は、憎悪という言葉をいとも容易く浮かべられる程の形相で、私の身体は怖さですくんで動けなくなってしまった。
そんな佳那汰君を一瞥するかのように視線を向けて鼻を鳴らして、
「ヒカリを傷つけたお前に偉そうに指図される筋合いはねえよ」
「アンタだって! 人の事偉そうに言える立場じゃないだろ!」
佳那汰君は那由多を押し退けて、
「こうせいちゃん、大丈夫?」
心配そうな顔を私に向けたけど、
「大丈夫じゃないからここで一人で泣きそうな顔して悩んでたんだろ。そんなふうにヒカリを悩ませたのはどこのどいつだ、クソガキが」
「アンタには関係ないだろ! 僕らの事に一々首突っ込まないでくれよ!」
「やめて…」
「ヒカリの気持ちも考えずに、独善的に勝手に突っ走って、なにが僕らの事だ。元々はお前のやらかした身勝手が引き起こした事だろ」
「くっ…」
佳那汰君が言い返す言葉が見つからないとばかりに苦渋の表情を浮かべると、
「お前はいつだってそうだ。自分の不始末は棚上げして、優しい顔して笑って遣り過ごすだけで、結果うやむやにしてなんの解決もせずに同じ事繰返してる中途半端なガキだ」
「もうやめてよ…」
こんな言い争いなんて見たくないよ…。
「はいはい。アンタは常に完璧で、自分が思うまま欲しいままになんでも出来る凄い人ですね。あー、羨ましい羨ましい」
佳那汰君は口角を歪ませて小さく笑って、
「ああ僕はアンタと同い年だけど中身はガキだよ。未熟者だよ。だけど、こうせいちゃんだけはアンタには渡さないから」
「バカか、ヒカリはモノじゃねえよ。そんなだからヒカリが悩んで泣くはめになる――」
「いい加減にしてよ! もうやめてって言ってるじゃん!!!」
止まない言い争いに耐えられず、
「もうやだっ!! バカっ!! 二人共大っ嫌い!!」
ありったけの力を込めて、
「私はどっちも要らない!! もう知らないっ!!」
二人に決別を放ってその場から走り去った。