相性が良いのよ-1
相性が良いのよ
立花涼太は中学の数学教員、勤務する学校の近くの駅で下車して階段を普通の早さで下っている。この駅は上下が同じホームを使っているので上下の電車が同時に到着すると乗車する人と下車する人が階段で接触することが多い。今日も目の前で乗車を急ぐ女性が倒れて手に提げたバッグが開いて中身が散乱した。
「拾いましょう、この電車は無理ですから落ち着いて、忘れ物がないように、拾いましょう」
「有り難う御座います、遅刻しそうで焦ってました。有り難う御座いました」
涼太が注意してもそれでも女は慌てて礼を言うと急いで階段を上って人混みに消えていった。
「これ忘れている・・・・・・あれだけ言ったのに、慌て者だ」
涼太は拾った女性の携帯電話を持って振り返るが次の電車が到着して下車する客に押されるようにして階段を下りて改札を出た。
涼太は、教師であるので遅刻が許されない、交番に届けるには時間がないので勤務する学校に向かった。帰りに交番に届けることにしよう。ボケッとに女の携帯を入れた。
それでもあの女は薬の瓶を何種類と注射器も持っていたな。麻薬の常習者かな、それにしては奇麗な女性だった。拾い集める女の項を思い出しながら校門を潜った。
午後の授業が一コマだけであったので三時過ぎに学校を離れて駅前の交番に、女の携帯を持っていった。
「中身を見るわけにはいきませんので、警察官の貴方の立ち会いで開いて、落とし主の女性を確認してください」
名刺を差し出し、携帯を警官に渡した
「そこの中学の先生ですか、分かりました。内容を見て分からなければ署の方から番号紹介をして貰いましょう」
警官は携帯を開いて、
「沿線でも随分先のT大学付属病院の方ですね。一応名前が番号と共にあります。長沼塔子さん、電話をしてみましょう」
涼太は、電話を掛けている警官を見ながら、自分の出身大学の名前が出て、同じ大学か、縁があるんだな。と慌てていた女の姿を思い出していた。医者かな?持っていた注射器・薬品の瓶の説明が出来る。
「そうですか、ご足労でも身分証明書を持って交番まで来てください」
「先生、お医者さんです。今此方に来るそうです、と言っても三十分はかかりますね。そこにお掛け下さい」
三十五、六の警官は、愛想が良かった。今時の交番はこのようなタイプの警官が多いのかな、
「交番勤務は大変でしょう、うちの子供、悪さが多いですから、大変お世話になっています」
「イヤ、先生の学校は、私立高校の付属ですから、みんな行儀が良いですよ」
涼太は理学部の化学科を卒業したのであるが、大学院博士課程に残って学者の路を選んだ。中学教員はアルバイトで、教職課程を取っていたので、物理、化学、そして数学の免許を取得していた。六年目になるがまだ博士論文を提出する段階に選んだ研究題目は至っていない。
「長沼塔子です、お世話になりました。身分証明書です」
「確かに、この方が拾っていただいた、立花涼太先生、そこの中学の先生です」
「長沼塔子です、朝お世話になりました。急いでいましたのでお礼もろくに言わないで、又携帯を拾っていただきまして、本当に有難う御座います」
「立花涼太です、直ぐに声を掛けましたが、もうお姿が見えなくて、私は授業がありまして、放課後になって申し訳ありません」
「いいえ、私はご連絡いただいても、手術場でしたのでどうにもなりませんでした」
「立花先生は外科の先生ですか?」
「はい、まだ一年一寸ですけれど一応外科医です」
「お腹を切ったり、交通事故の救急を治療したり」
「はい、近頃は切ることは少なくなりましたが、事故の方はひどい患者さんが運ばれてきます」
「それでは、身体が安まる暇がないでしょう。ご苦労さんです」
「そちらこそ、治安を守っていただいて、有り難う御座います」
涼太と塔子の二人は交番の警官に礼を言って駅に向かった。
「立花先生、私のマンションは駅の向こう側ですの、是非寄ってください」
「女性の部屋に男性の私が・・・・・・」
「よろしいですよ、私は先生にお願いしたいことがありますの」
「私にですか?どんなことを」
「歩きながらでは申し上げにくいことですので、部屋に帰りまして」
「今日お会いした女性の方にお誘いを受けましても、一応教師ですから、暫くお付き合いをしてからでは」
「そんなことを言われたら、私は一生恋愛できません」
塔子は無理に涼太を引っ張ってマンションに連れて行った。涼太はなんで一生の問題なんだか、塔子の言う意味が分からずに部屋に導かれた。
「素敵なお部屋ですね、家賃高いでしょう」
「大学に入学したときに父が買ってくれましたの」
「実家は病院経営をなさっておられるのですか?」
「ハイ、父も母もT大出身で、恋愛結婚・・・・・・・立花先生、パンツの色は何色?」
「えっ、なんですって?」
「だから、パンツの色です、ズボンを降ろして見せて」
「パンツの色?・・・・・・・どうして」
この先生は色狂人なのかな、いきなり下着を見せろと、涼太は塔子の顔を見つめていた。こんな可愛い子が・・・・・・・