I.-4
お腹が満たされた後、自転車で20分はあるであろう博物館へと向かった。
「今日はいい気候だ」
「だな。あ、そーいやこの間佐伯さんからいーモンもらった」
湊は財布を漁り、陽向にチケットを差し出した。
「なにこれ?」
「恐竜博物館」
「あ。あそこの博物館のやつ?」
「そ。子供と行こーとしたらしーんだけど、どーしてもこの期限までに行けねーらしくて、もらった。お前博物館とか好き?」
「うん!」
「だと思った。プラネタリウムもあるらしーから、行ってみよーぜ」
「行くー!」
子供のようにケタケタ笑いながら自転車で土手を走る。
途中で珍しい花や草を見つけては、草花の名前をネットで調べる。
「スズランってこれなの?」
「ネットに書いてありゃそーなんだろ?」
「そーなのかなー?」
自転車を停めて唸る陽向を見ながら湊はクスクス笑った。
「なんで笑うの!」
「は?」
「今笑ってたでしょ」
「かわいいなーと思って」
「うそだ!ばか!」
陽向はシャカシャカと緑色の自転車を漕ぎ始めた。
中学生みたいな後ろ姿が可愛らしい。
「ひな坊!そこ、左な!」
「あいー!」
直前で言ってもすぐに対応できる瞬発力はすごいと思う。
スッと曲がって「早くー!」なんて余裕かましてる。
しばらくして目的の博物館にたどり着いた時、陽向はひどくワクワクしていた。
「ねー!恐竜いるかな?!」
「いるんじゃねーの?ここの博物館結構スゴイって聞いたし」
受け付けで1人1000円払い、パンフレットを受け取る。
”順路”と示された方向へ従って歩く。
「すごーい!ねぇっ!湊っ!化石あるよ!」
「おーー!スゲーな」
今まで博物館とか来たことなかったけど、こうして大人になった今、感慨深いものがある。
佐伯さんに感謝だ。
「佐伯さんも、子供と来れたら良かったのにね」
アンモナイトの化石を見ながら陽向が呟く。
「佐伯さんは、なんで来れなかったの?」
「仕事が忙しいからっしょ。そろそろゴールデンウイークだし、その仕込みやらメニューやら色々あんの」
湊は陽向の頭をポンッとはたいて言った。
「佐伯さんの子供って何歳なの?」
「確か5歳かな」
「えーっ!可愛い!会いたいなー」
そう言いながら陽向は”ふれあい広場”と称される水辺の中からヒトデを取り出して「ヒトデー!」とはしゃいでいた。
「お前、佐伯さんの子供に会いたいってサラサラ思ってねーだろ」
「思ってるもん」
ヒトデに「ゴメンね」と謝りながら陽向が怒った顔をする。
「説得力ねーな」
「あるってば!!!」
「…お前、子供ちょー好きだよな?」
「うん、大好き」
「お願いがあるんだけど」
「え、なに?」
「佐伯さん家の子供、ちょっと面倒見てくんねぇ?」
「え…え、なにいきなり」
「…ってゆーのはさ」
湊は先週佐伯から相談されたことを語り始めた。