妖怪小路-1
――鎌鼬(かまいたち)は、日本に多く伝えられる妖怪、もしくはそれが起こすとされた怪異である。つむじ風に乗って現れ、鎌のような両手の爪で人に切りつける。鋭い傷を受けるが、痛みはない。
…飛騨の丹生川流域では、この悪神は3人連れで、最初の神が人を倒し、次の神が刃物で切り、三番目の神が薬をつけていくため出血がなく、また痛まないのを特色とするのだと伝えられる。――(ウィキペディア「鎌鼬」の頁より抜粋)
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その日も、雨が降っていた。
アベノミクスとやらのおかげで景気は上向いてるらしいが、おかげで給料の安いコンビニには求人の応募がない。だから今夜もオーナーが夜勤なんだが、あの人の遅刻癖は本当に酷い。オーナーのくせに。
そんなわけでやっぱり、店を出たのはいつもより一時間ほど遅かった。
あれ以来、すねこすりには遭っていない。…まぁ、そう何度も妖怪と遭遇するのはどうかと思うけど。とはいえ、あんなにイイ思いがまたできるんなら、怪異に遭遇するのもやぶさかではないと言うか・・・。
ちょうど、もう少し行けばあの時の‘路地’だ。翌晩通った時には、影も形も無くなっていたあの路地――が、今晩は、ある。もともと記憶になかった路地で、あの日以来、ずっと継ぎ目のないブロック塀に戻っていたのに…。
考えるより先に、体が路地の角を曲がってしまう。しばらく行くと、あの日と同じですぐ行き止まりにぶつかった。
「入ってこれたってコトは、コイツかな?姉上」
「へ〜っ、じゃあこのおにいちゃんが、すねこすりちゃんが言ってたひと〜?」
不意に後ろから声がして、あわてて振り返る。どこから現れたのか――全裸の女性が3人、路地をふさぐように立っていた。
「お初にお目にかかります・・・私(わたくし)は、鎌鼬の夕凪(ゆうなぎ)と申します。」
「アタシは旋風(つむじ)。」
「春風だよ〜〜っ!」
真ん中の、一番長身で豊満な女性が名乗るのに続いて、残りのふたりもそれぞれ名乗る。
身長が、ちょうど階段のように順に低くなっていて、高い方から夕凪、旋風、一番小さい女の子が春風。面影がどこか似ているから、もしかすると姉妹かもしれない。
さっきも言ったように、3人とも一糸纏わぬ姿・・・でも、髪からちょこんとのぞく耳(狐のような三角ではなくて、どっちかと言うと狸に近い半月型)、脚の間からのぞくふさふさの尻尾が、ただの痴女じゃないことを物語っている。そういえばさっき、カマイタチとか言ってたっけ・・・
「ね〜ナギお姉ちゃん〜…春風もぉおなかぺこぺこだよ〜・・・」
「コイツももぉ状況は分かってるだろーし、さっさとヤっちゃおーよ、姉上。」
「そうね…自己紹介も済みましたし、本題に入りましょうか。では、まず私(わたくし)が・・・」