アパートの鍵、貸します-4
「分かった。時間は?」
「明日の昼休みと三限だから……十三時から十五時までで」
その時間帯は麻里と一緒になるゼミの前で、智哉にとっても空き時間だったが、まあそれは
仕方ない。最近は昼の客が少し減っていたので、ご新規さんは歓迎だった。
「じゃあ二千円。延長は十分につき二百円な。メールくれればいいから」
「オッケーオッケー」
事務的に料金を伝える智哉に、流は満面の笑みを浮かべながら親指と人差し指で輪を作って
そう返す。
「いやー、安いし近いし静かだし、マジ助かるわ。ほんとサンキューな、宮下」
「ああ。よろしければ今後もどうぞご贔屓に」
いかにも軽薄な乗りで嬉しそうに肩を叩いてくる流に、智哉は精一杯の愛想笑いで応えた。
* * *
「うわ……やっべ」
整え直したベッドの上で、智哉は思わずそう漏らした。
時計の針は十三時を少し回っている。完全に寝坊だ。
昼前には家を空ける予定だったのだが、昨日の晩に軽い暇潰しのつもりで始めたオンライン
ゲームになぜかハマって抜け出せなくなり、結局ほぼ徹夜になったのが災いした。
(少しだけのつもりだったのに……)
急いで準備をしながら、智哉は後悔の念に唇を噛んだ。眠ったおかげで頭はだいぶ軽いが、
その代償が大事なビジネスの信用問題というのでは割に合わなすぎる。
「よっ、と」
最低限の整理整頓を済ませると、智哉は部屋の中央に設置されたレールカーテンを勢いよく
走らせ、十二畳のワンルームを六畳二間に早変わりさせた。風呂場やトイレといった水回りが
ある玄関側にベッドとソファーを置いて、客にはそちらを貸す。机や本棚などがある反対側は
智哉のプライベートスペースということで立入禁止の決まりだ。
「……げ」
廊下から、足音が近づいてきた。
賑やかな男女の話し声が徐々に大きくなり、やがて家の前でぴたりと止まる。
ガチャガチャと鍵が回って、玄関のドアがすっと開いた。
「うぉっと」
智哉は慌てて奥の自分用スペースに飛び込むと、片膝を立ててカーテンの傍に身を潜める。
「ささ、入って入って」