再出発-9
再出発-9
女の洞察力、観察力を甘く見すぎている有樹は以降も優衣との浮気を重ねた。優衣は有樹に悟られぬよう、瀬奈への当てつけの痕跡をわざと残していた。喉元へのキスマーク、ワイシャツの襟首へのリップづけなど、女なら浮気に気付くであろう痕跡をわざと有樹に残したのであった。
「あれ?あのネクタイどこにやったかなぁ?ほら、あの誕生日に会社の子に貰ったやつ。」
「え?知らないよ?どこかにしまったんじゃないの?」
お気に入りのネクタイが見当たらず探す有樹。しかし見つからなかった。
また別の日。
「なぁ、ピンクのワイシャツどこ行ったっけ?」
「あれはなんか破けてたから捨てちゃったよ。もう縫ってもダメそうだったから。」
「そうか。」
当然嘘である。浮気の痕跡に発狂しそうになるのを抑える為に、それらは瀬奈によりビリビリにされ捨てられてしまったのだ。鈍感な有樹には全く気付けていなかった。すっかり病気は収まったものだと思い安心して優衣との浮気を続けていた。
耐える瀬奈。優衣は瀬奈が発狂しないのが面白くない。自分が有樹と肉体関係を続けている事に気付いていない訳がないと確信している優衣は内心穏やかではなかっ他。
「早くまた発狂してくれないと有樹と結婚できないじゃないのよねぇ…。」
優衣ももう我慢出来なくなっていた。そして優衣は大胆な行動に出る。
ある日、いつものように優衣とセックスして帰宅した有樹。夕食を取りテレビを見ていた時だった。
ピンポーン。誰かが訪ねて来たようであった。瀬奈が応対しに出て行った。ドアを開けた瀬奈。瀬奈は一瞬その訪問者の顔を見て面食らった。
「どうも〜。有樹さんいます??」
憎たらしい程の余裕の笑みを浮かべたその女…、まさかの優衣であった。優衣の声だと気付いた有樹は慌てて玄関に飛んできた。
「お、お前!ど、どうして来たんだ!?」
家には絶対に来ないという約束だった。なのに訪れて来た優衣に怒りを覚えた。
「だって、手帳忘れて行ったからさぁ。困るでしょ?ないと〜。」
「め、メールすりゃ…。あ…」
慌てすぎて瀬奈の存在をすっかり忘れていた。もう会っていないはずの優衣との関係を暴露したようなものだ。有樹は気が動転する。
「…」
そんな有樹を無表情でチラッと見ると、瀬奈は振り返り部屋の中へと消えて行った。
「へぇ〜、実物はなかなか綺麗だね。」
思っていた以上に瀬奈は美人であった。それは認めた優衣であった。
「おい、約束が違うじゃねぇかよ!!どうして家に乗り込んで来たんだよ…!」
「だって、あんたがいけないんでしょ!?いつまで待てばいいのよ!私だってもう限界よ!」
「だからって!」
両方にいい顔をしたツケが回った。自業自得である。