痛みと悦び-1
あの傷跡は知っている。
陰送りになった罪人達の身体にあった、鞭打ちの跡だ。
彼は『仕事で』と言った……つまり、趣味とかでなく、好き好んで打たれたわけではないようだ。
ジルがどんな仕事をしているかは知らない。
知らないが、ジルが痛い思いをしているのが、リョウツゥにはとても辛かった。
彼は直ぐ治ると言っていたし、銀の民なのだからそうなのかもしれないが嫌なものは嫌だ。
あの日からリョウツゥはジルを見ると必ず傷があるか聞いた。
ジルは嫌な顔をしていつも『たいした事無い』と答えたが『無い』とは言わなかった。
「傷だらけになるお仕事ってなんでしょう?」
独り言のように呟いたリョウツゥの言葉にヴェルメが眉を潜める。
「そういう仕事に興味があるのか?」
それが個人的な趣味ならしょうがないが、できればリョウツゥの可愛いらしい口からは聞きたくない。
「いえ、そんな、違います……ただ……」
「ただ?」
リョウツゥは少し言い淀んでから顔を伏せた。
「ジルさん、いつも傷ついてるんです」
「?ああ、同じアパートの銀の民か?」
「はい。ジルさんも、趣味とかじゃ無いんです。なのにいつも傷だらけで……」
「ふむ。王都周辺の遺跡探索とかするハンターなら傷つき易いがな」
それか、警備隊とか闘技場のパフォーマーか?
とヴェルメがいくつか職種を教えてくれたが、どれもジルには当てはまらない気がした。
「ま、後は他者に言えないような仕事だな」
考えたくはないがそれが1番しっくりくる。
勤務時間もまちまちだし、人目を避けるように生活している。
ジルが他の民と話しているのを見た事が無い。
「リョウツゥはどうしたいんだ?」
例えばジルの仕事がとても悪い事だとして、それを知ってどうするのか?
「分かりません。でも、ジルさんが痛いのは嫌です」
「そうか。そうだな」
ヴェルメはふむふむ頷いた。
「なら、リョウツゥに出来る事をしてやれば良い」
「私に、ですか?」
「今まで通りで良いと思う。ただ、彼の事を気にかける他者が居ると気付けば、彼も出来るだけ心配させないようになる筈だ」
ヴェルメはリョウツゥに言いながら、自分にも言い聞かせていた。