喜びと痛み-8
「あははっやだっくすぐったいです」
(やっぱ、笑ってんのが良い)
ジルは最後にぺろんと頬を舐めると、自分の服をくわえて首を動かした。
「あ、はい」
あっち向いとけ、の合図にリョウツゥは起き上がってそそくさとジルに背を向ける。
『ぐ』
骨がギシギシ軋み、内臓が掻き回される感覚に汗が流れる。
『くうぅっ」
徐々に獣の声からジルの声に戻った頃には、すっかり人間の姿になっていた。
「ふうっ」
顎を伝う汗を手の甲で拭ったジルは、妙な視線を感じて振り向く。
「は?!」
振り向いた先には鏡があり、鏡越しにリョウツゥとバッチリ目が合ってしまった。
「お・ま・え・なぁ〜」
ジルが慌てて下着を履くと、リョウツゥが振り向いてにじり寄ってくる。
「?」
「……痛そう……」
リョウツゥはジルの背中にある鞭叩きの傷跡にそっと触れた。
「ああ、仕事でな。銀の民は治癒能力が高いから直ぐ治るぜ?」
「でも、治るまでは痛い……ですよね?」
「ああ、まあなぁ」
ジルが答えるとリョウツゥは立ち上がってベットサイドの引き出しを開ける。
「私、薬草とかに少し詳しいんです。痛み止め、塗っても良いですか?」
「いや、別に直ぐ治るから……」
「痛み止め、塗りますね」
「……はい」
引き出しから出した薬瓶を握りしめたリョウツゥが別人のように力強く言うので、ジルは引き下がって大人しく背中を向けた。
背中の傷跡にリョウツゥの小さな指が這い、ジルの尻尾がぶわっと脹れる。
「痛くても、少し、我慢して下さい」
「はぃ」
傷口はほぼ塞がっているから痛くない、痛くはないのだ……ただ……。
(くっすぐってぇ)
そこだけ薄くなった皮の上を優しくなぞられたら、くすぐったいやら気持ち良いやらでジルの尻尾が落ち着きなく揺れる。
そんなジルとは対称的に、リョウツゥの表情は暗かった。
ただ、ジルの痛みが少しでも和らぐように、丹念に薬を塗り続けた。
ー続くー