喜びと痛み-6
(……なぁんでこんな事になってんだ?)
ジルは今、リョウツゥの部屋で、全身獣に変化した状態で、彼女に抱っこされていた。
リョウツゥのお願いは『ジルのふわふわ尻尾をもふもふしたい』だった。
しかし、ジル達銀の民にとって尻尾は性感帯になるので固くお断りした。
が、リョウツゥががっくりと肩を落として落ち込んだので、妥協案として全身変化のもふもふを提案したのだ。
銀の民の中でも稀に全身変化できる者がいる。
ジルはその稀なタイプで、半獣変化も出来る。
(だからってなぁ?)
全身変化はめったにやらない……正直、痛いのだ。
骨は軋むし、皮は伸びるし、体力は使うし……相当な理由が無い限りやりたくない。
(だけどなぁ)
リョウツゥの落胆具合が激しくて、つい、言ってしまった。
そのリョウツゥは満足そうにジルの体毛のもふもふを堪能している。
(……ま、いっか……)
お礼に来たのに落胆させたら意味が無いし、撫でられるのは気持ち良い。
ジルは開き直ってくるりと身体を捻って腹を見せ、尻尾をパタパタ振る。
「わ。お腹は白いんですね。手触り違う〜」
リョウツゥは通常の狐よりかなり大き過ぎるジルの身体を抱きしめて頬を擦り寄せる。
全身変化しても基本的な大きさはジルと変わらないので、リョウツゥよりも大きい。
(んぁ〜♪気ん持ち良い〜♪)
何もかもが小さいリョウツゥが全身で撫で撫でしてくれるのが、くすぐったくて良い感じだ。
くうぅ〜
「あ」
うっとりしてたらお腹が鳴ってしまった。
ジルは振っていた尻尾をパタリと止めて、気まずそうに顔を反らす。
「そうですよね。お腹すきましたね。私、作ります。一緒に食べてくれますか?」
リョウツゥはジルから身体を離して台所へ向かう。
ジルは脱ぎ捨てた自分の服(勿論、脱ぐ時は「あっち向いとけ」と注意した)の所へ行き、鼻面でごそごそと何かを探す。
探していたのは愛用のゴーグルで、獣の前足で苦労して操作した。
『わふっ』
リョウツゥに声をかけ、彼女の注意を引くとゴーグルをくわえて持っていく。
「?かけて良いんですか?」
リョウツゥの言葉にジルは尻尾をパタパタ振る。