喜びと痛み-5
「どうも感情が高ぶると出てしまいますねぇ。銀の民が濃いなぁ」
全ての民の特徴を持っているが、銀の民は生命力が他の民より強い。
発情も激しいし、感情が尻尾や耳に出てしまう。
「キアノ」
ヴェルメは眉を潜めてキアノを見つめた。
「大丈夫ですよ。一応、薬はありますし急いでますから……大丈夫です」
苦笑するキアノに、今度はヴェルメがキスをした。
「もしもの時は、私が止める」
「はい。お願いします」
キアノは嬉しそうに笑ってもう一度ヴェルメにキスを返し、隠し通路から城へ戻っていった。
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仕事を終わらせたリョウツゥは、買い物を済ませてアパートに戻った。
(ジルさん、食べてくれたかなぁ)
差し入れをした日は洗われたタッパーがリョウツゥのドアにかかっている。
何となく『おかえり』と出迎えてくれているように感じて嬉しかった。
軽やかな足取りで階段を上がり切ったリョウツゥは、自分の部屋の前に居る人物に目を瞬いた。
「ジルさん?」
「おう」
そこに居たのはジルだった。
彼は軽く声をかけるとリョウツゥに手を上げる。
「おかえり」
「あ、えっと、はい。ただいま、です」
出迎えてくれたのがジル本人で、何だか妙にくすぐったい。
ジルは上げた手とは反対の手に持っていたタッパー入りの手提げ袋をリョウツゥに差し出した。
「んまかった。サンキュ」
「あ。よかったです」
リョウツゥは手提げ袋を受け取り、ジルを見上げた。
「お礼ぐらいした方が良いと思ったんだけど、お前が喜ぶもんが分からんかった」
「?」
「お礼と、これからも頼むって感じで何かしたい。何が良い?」
リョウツゥはきょとんとした顔でジルを見上げたまま無反応だった。
「?おい?」
ジルが声をかけると見る見る顔が輝いていく。
「あの!でしたら、お願いがあります!」
「お、おう」
両手をぐっと握り、爛々とした目で勢い良く言ったリョウツゥに、ジルは若干引き気味で頷いた。