喜びと痛み-4
「お茶をいれてこよう。紅茶で良いか?」
席を立ちながら聞いたヴェルメにリョウツゥは口を動かしつつコクコク頷く。
キアノを追うように部屋を出たヴェルメを、キアノは廊下で待っていた。
「何のつもりだ?」
まるで探るみたいなリョウツゥへの質問に、ヴェルメはキアノを睨む。
「いえ、別にリョウツゥちゃんを疑っていた訳では無いのですがね」
城に密偵が潜んでいた時期と、リョウツゥがクアトリアに来た時期が丁度重なっていたので気になっただけ。
「良く考えたら密偵は『銀の民、男性』なので違うんですけどね」
キアノは苦笑して頭を掻いた。
「そうか」
ヴェルメはほっとして胸を撫で下ろす。
「……お気に入りですねぇ」
「ん?」
元々、面倒見の良いヴェルメだがリョウツゥは特別可愛がっている気がした。
「素直で良い娘だしな。その分、危なっかしいから気が気でないんだ」
それにヴェルメの好きな可愛いフリフリやピンクが良く似合う。
着せ替え人形としてもお気に入りなのだ。
「ふ〜ん……そうなんですか」
何となく憮然としたキアノの言い方にヴェルメは気づく。
「なんだ?」
「どうせ僕は素直じゃありませんし?ピンクもフリフリも似合いませんがね」
どうやらリョウツゥ相手に妬いているらしい。
「お前は綺麗な目をしている」
「は?」
「透き通るヒレも光る魚鱗も綺麗だ」
「……」
「それに私を……か、可愛いと言ってくれる。それはお前だけだろう?」
仄かに染まる頬で淡々と語るヴェルメの言葉に、キアノの顔がみるみる輝いていく。
「〜〜〜〜〜っ!ヴェルメさんっ!!」
キアノはいきなりヴェルメの両肩を掴むと彼女を壁に押し付けた。
「な、なんだ!?」
「愛してますよ。可愛いヴェルメさん♪」
キアノは少しだけ背伸びしてヴェルメにキスをする。
カウル=レウム王だとヴェルメより背が高いが、キアノだと彼女の方が高いのだ。
「わ、分かったから」
何度もキスを繰り返すキアノを引き剥がし、ヴェルメは息を整える。
キアノのお尻からは金色の蜥蜴の尻尾が生えて、パタパタと振られていた。
「キアノ。出てる」
「おや」
ヴェルメの指摘にキアノは慌てて尻尾を引っ込めた。