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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第一話-9


 本で埋め尽くされた室内。耳元に届く荒い息遣い。
 特有の埃と黴の匂い。自分の背中を這う冷たい指先。
 天井の壁紙の色。痛みを伴うゆるい律動。
 テーブルの上のペーパーウェイト。
 押さえつけられていたソファーの感触。
 怖くて、身体が重くて、息が出来なくて。
 嫌だと、やめてと言ったのに。
 どうして──。

 どれだけ呼吸をしても苦しい様な気がして、焦って思い切り息を吸い込んだ途端、孝顕は軽く咳き込んだ。喉の痛みと共に、揺れていた視界が少しだけ落ち着く。
 佐伯が孝顕に覆いかぶさり身体を押さえつけていた、涙に濡れた瞳の奥に欲望と興奮が渦巻いている。

 先生も同じなのか。

 確かに目を開けているのに、視野が極端に狭まっていた。瞳に映る像は次第に歪み、暗くぼやけていく。
 自分の上にいるのは先生の筈なのに、身体にかかる重さを別人だと錯覚する。逃げたいのに重くて動かない手足、混乱でぼやける意識を繋ぎ止めようとしても、濁流に呑まれたようにまとまらない。
「今だけだから、夜刀神君……」
 正体の判らない声が孝顕の鼓膜を震わせ、僅かに残る抵抗の意思さえ挫こうとする。
「お願い、今だけ。少しの間だけでいいの」
 佐伯を掴んでいた腕が緩み、力を失って床に落ちた。
「夜刀神君……」
 大人しくなった少年に佐伯が声をかけると、僅かに眉を寄せ緩く瞬きをしたがそれ以上の反応はない。彼の様子を不審に思ったが、彼女が止まる事はなかった、
「ごめんなさいね……。ごめんなさい……」
 繰り返し謝罪を口にしながら少年の髪を梳き、佐伯は腹から胸元へ掌を滑らせシャツを肌蹴させる。見た目にもはっきり分るほど滑らかな白い肌、筋肉の薄い未成熟な細い肢体。中性的な妖しさに彼女は薄暗い欲望を益々募らせる。
 胸元に唇を這わせ舌先でぬるりとなぞった。小さな頂を嬲ると少年の胸板が僅かに上下し、呼吸が乱れる。指の腹でもう一方の頂にも緩い刺激を与えながら、空いている手は腹や脇腹を滑らせた。
 時折息を詰めながら、孝顕は与えられる刺激をやり過ごす。視線を天井に固定し決して他を見なかった。抵抗する気は失せていた。
 ただ、「何故」 と思うだけだ。

 なぜ。
 どうして。

 先生にはこんな形で感情を表して欲しくなかった。肉欲に溺れて欲しくなかった。

 泣いてもいいのに。
 怒りでもいいのに。

 よりによって何故──。

 やがて、佐伯の指がズボンの上から少年の股間に触れた。形を確かめるように中央の盛り上がりを執拗になぞるとベルト外す。ボタンも外しジッパーを下した。
 孝顕の視線は動かない。彼女を見たくなかった。静かに目蓋を閉じる。

 元気になって欲しかった。
 見せかけではなく、本当に笑って欲しかった。
 それ以上なにを望んだわけではない。純粋な感情だった。先生の傍は明るくて温かくて、居心地が良かったから。
(俺が、他の生徒達のように普通の男子であったなら、少しは違ったのだろうか?)
 素直に先生の行為を受け入れたのだろうか。先生を慰めるために、身体を委ねたのだろうか?
 けれど自分はとうに普通ではなくなっていた。興味の赴くままに無邪気に性を語ることなど出来はしない。


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