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貧乳コンプレックス
【青春 恋愛小説】

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貧乳コンプレックス-3

「茜ー! こっち、こっち!」
「あーん、もう! 下手くそッ!」
短いながらも自由遊泳の時間だ。
4、5人でビーチバレーをする。自由貸し出しの小さなビーチボールは良く飛ぶので、わたしのトスでボールは高く遠く飛んで行ってしまった。
「痛ッ」
ぼん、と男子の頭にボールがぶつかる。勿論ビーチボールだからそこまで痛くはないだろうけれど、わたしは慌てて謝りに行く。
「坂田、ごめん!」
良かった。ボールが頭に直撃したのは、クラスの中でも一番に優しい坂田だった。
いや、でも待てよ……この坂田と良くつるんでるのは――
「お、貧乳。何やってんだ」
坂田の影に、保住はいた。
「その言い方止めてよね。ちょっとボールが飛び過ぎちゃったから、取りに来ただけですよーだ」
そう保住に素っ気なく言って、坂田からボールを受け取ろうと手を伸ばした。
しかし、ふぅんと軽く鼻を鳴らした保住は、そのボールをさっと横から奪い取る。
「良いか。行くぞ、牧田」
言って保住はボールを高く投げると、水の中にも関わらず自身も高くジャンプする。
そうして奴はジャンプサーブを放つ。
「あー! 何すんの!」
わたしは抗議の声を上げながら、放たれたボールを目で追う。
しかし、ボールは見事舞子達の元へ。
「…………」
何だか悔しくて押し黙るわたしに、保住は言った。
「元バレー部ですからぁ。ほれ、見れ! 筋肉!」
言いながら、わたしの頬に腕を押し付けて来る。
(や……やだ)
顔で嫌がるけど、本当は嬉しい。でも、今は何だか恥ずかしさの方が増してしまって、わたしは思わず顔を赤くする。
だって、本当にこいつの筋肉って凄くて……腕なんか凄い硬くて。
バレー部だったって話は聞いてたし、保住が運動出来ることも知ってる。
でも、こんなに逞しい身体してるなんて。
(抱きしめられたら、ヤバイんじゃない……?)
「いい加減にしろ! 頬っぺたアザになるッ!」
わたしはそう言って奴の腕を引き剥がした。
やだ、胸の鼓動が凄く速い。

ピーッ!
自由遊泳の終わりを告げるホイッスル。
教師達が、プールから出てタイム測定の準備をするように言う。
「もー、あんたのせいでバレーが出来なかったじゃない」
「俺の筋肉を堪能出来ただけありがたいと思え」
力こぶをつくってみせ、軽口を言う保住。
実際そうかもね、なんて言葉は死んでも口に出来ない。
わたしはべー、と保住に向かって舌を出す。
「可愛くねーな」
わたしもそう思うよ。
でも、あんたの前じゃ素直になれないんだから仕方ない。
「うるさいな。ほら、次はタイム測定だってさ」
「タイム測定、ね。お前他の女子より水の抵抗が少ねー筈だから、頑張れよ」
促すわたしに、保住は自分の胸の辺りを叩きながら言った。
本っ当、ムカつく奴!
「バカ!」
一言吐き捨てて、わたしは皆の元へ戻って行ったのだった。


「――次、牧田・宮崎!」
ハスキーな声は、水泳部顧問の田島だ。
男女別、クロールのタイム測定。女子の方は、ようやっとわたしの順番。
今年初めてのタイム測定に加え、さっきの保住の言葉もあってか、妙に緊張する。


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