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貧乳コンプレックス
【青春 恋愛小説】

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貧乳コンプレックス-2

「遅せぇよ、牧田」
口悪く、保住が廊下のサッシに寄り掛かりながら言う。
真夏の蒸し暑い校舎、走って汗を掻いた肌には、窓からそよぐ風が気持ち良い。
「いちいちうるさいな」
わたしも言って、また保住を睨み付ける。
それから閉めてある窓を開き、わたしは入って来る風を一身に受けた。
「風が凄い気持ちいー! 全く、あんたのせいで汗掻いちゃったから」
ちらりと横目で保住を見やる。
こんなわたしの嫌味など奴は気にするでもなく、またあのへらへらとした笑いを浮かべながら言う。
「良いじゃねぇか、胸の間に汗なんか溜まらないだろ?」
「ッの、変態!」
「貧乳」
「スケベ!」
「貧乳」
「あんた、それしか言えないわけ!?」
わたしが声を荒げて言うと、保住は少し考えるような素振りを見せてぽん、と思い付いたように手を打った。
「超貧乳」
「……もー、怒る気も失せる」
わたしが脱力してそう言った時、昼休みの終わりを告げるチャイムが流れた。
わたし達は二人顔を見合わせ、戻るかと言う言葉と共に教室へ向かった。

いつも、思う。
何でわたしはこんなに素直じゃないんだろう。
いや、今更告白なんてそんな出来るとは思っていないけど。
それでもやっぱりこんな胸がない上に乱暴な女なんて、男子って好きじゃないでしょ?
分かっているんだけど、駄目なんだ。
あいつの前で可愛くするなんて。


――さて4限も終わり、休み時間になった。
と言っても、5限は体育。この次期体育はプールなので、着替えをしなければならない。
わたしは友人と共に更衣室へ向かう。
更衣室へ向かうその途中、わたしは傍らの市原舞子(いちはらまいこ)を見やった。
彼女は、全く羨ましくなるほどのモデル体型。
顔は小さい、足は細い長い。それなのに胸はあるって?
羨ましいったらありゃしない。

「舞子ってさ、一体何食べてそこまでスタイル良くなったの?」
水着に着替えて見てみれば、誰もが羨むその姿。
タオルを羽織りながら舞子に言うと、彼女は少し照れたように言った。
「別に何を食べるってのもないよ? そこまでスタイル良いわけじゃないし……」
「舞子が悪けりゃ誰が良いんだっつーの」
「舞子の謙遜は嫌味に聞こえちゃうよ」
舞子の背後にいたクラスメイトの女子達が一斉に言った。
わたしもむくれる。
すると慌ててフォローするかのように舞子が言った。
「そ、そんな! ねえ、茜だって羨ましいくらい細いじゃない!」
そんな舞子の言葉に、友人達は笑った。
「駄目駄目、おチビの茜はもうちょっと背がないと」
「勿体無いよね。小顔なんだから、もう少し足が長ければモデルとして活躍出来たかもしれないのに」
「ねー! 胸がないモデルなんて当たり前だもんね」
「……ちょっとあんたら、殴られる覚悟は出来てる……?」
わたしのその言葉に、彼女達は揃って顔を引き攣らせながら謝ったのだった。


夏は好きだ。プールは好きだ。泳ぐのも得意ではないけれど、まあ好きだ。
嫌いなのは、水着になること。
真っ平らなこの胸に、本当にコンプレックスを感じる。
そりゃ皆が皆胸があるとは限らないけど、少なくともクラスで一番の貧乳はわたしだった。
去年から分かっていたことだけれど、今年も改めて感じるその事実にうな垂れる。


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