出逢い-1
天気のいい穏やかな木曜日。
私はいつものように家事をこなし、いつものようにパートの準備をし、いつものようにパートをしていた。
高杉からのメールは昨日の夕方から止まっていて、私はパートの休憩時間に心置きなく、iPhoneと遊んでいた。
客足の少なくなる午後2時頃、珍しくドアのガウベルが音を立てた。
「いらっしゃいませ」
元々常連客ばかりしか来ないAmityなのでこの客もきっと常連だろうと思い込んでいた私は
ガウベルの音を耳にして条件反射的に言葉にしたが、その来客は私の想像通りではなかった。
「こんにちは。会いたかったよ。亜沙美さん」
その来客は私の真ん前に陣取るようにカウンターに座り、声を掛けてきた。
「…高杉さん…どう…どうしてここに?」
驚きを隠せない私をみて、笑いかける高杉は続けた。
「岡部の奥さんが教えてくれたんだよ」
「岡部さんが?」
「そう。美紀さんがね。…取敢えず、そうだなぁ、ホット下さい」
「え?あぁ…はい。ホットですね」
大抵の客は雑誌を見てるのに高杉は私をじっと見ている中、私はグラスに水を注ぎ、カウンター越しに置いた。
「どうぞ」
「わぁ。ありがとう」高杉は大事そうにグラスを持つ。
カウンターの中でドリップし、ホットコーヒーをカップに注ぎ、カウンターに置くと高杉は早速口をつけた。
「うん。うまい!こんなおいしいコーヒーははじめてだよ」
『さぶっ…』見え透いたお世辞に嫌悪感をあらわにしながら
「ありがとうございます。でも普通のコーヒーですよ」
「違うよ。亜沙美さんがいれたコーヒーだから最高なんだって」
「…そうですかねぇ…」
「そうだって!」
・・・・・・・
・・・・・・・
何を言っても無駄のようなので私は黙ることにしたが、高杉はマシンガンのようにしゃべり続けた。
「いいお店だね?」
「ここは長いの?」
「パートは何時まで?」
「明日もパート?」
・・・・・・・
私は素っ気なく「えぇ…まぁ…」と適当に答えているとようやく常連が来て、高杉からのアタックから解放された。
常連客の応対をしていると高杉は立ち上がり「ご馳走様」といい千円札をカウンターに置いて店を後にした。
「おつり…」私が言うよりも先に高杉はもうドアの向こう側に消えていた。
『何なんだったんだろう…』整理もつかず、私はパートを終え、家に帰ると高杉からのメールが届いていた。
”いきなり店におしかけてごめんね。
でもそれだけ会いたかったんだよ。
話したかったんだよ。
でも今日は良かった愛しい人に会えたから^^
また行ってもいいよね?
断られても行くよ、入店拒否なんてさせないぞ!!
大好きな亜沙美ちゃんへ。
亜沙美ちゃんファンクラブ 会員番号1番 亮より”
「何なの…この人…」
私は相変わらず高杉からのメールを無視することにした。
高杉は翌日の金曜は12時頃に店に来て、1時間ほどいて、帰って行った。
翌土曜日、遅番の私が12時前に店のドアを開けると、ドッと笑い声で店が満ちていた。
どうやらカウンターの高杉を中心に常連客やママが話に乗り、盛り上がっているらしい。
恐る恐る入りながら「お疲れ様〜」と言う私にママが
「おはよう!亜沙美さん、この人面白いわね〜、こんなに話がうまい人はじめてよ〜!」
私の外堀がどんどん埋められているような気がした。
その後も高杉は店に頻繁に顔を出すようになり、話の内容から不動産会社で働いていて北九州を飛び回っているようで北九州から福岡まで来ることもそう珍しい事ではないらしい。
紳士的で周りの人に話をふり、盛り上げ上手な高杉を常連客もいつの間にか受け入れていた。
私を残して…。
皆、高杉の来店を待っていて、「今度、いつ来るの?」ママが聞くと、
「亜沙美さんがパートしてる日なら毎日でも」平静と応えていた。
「だったら亜沙美さんには毎日入って貰おうかしらね??」
「ちょっとママ…高杉さんとはそんなんじゃないんだって」
ママも冗談で返すほどだった。
「僕はそんなでもいいけどね。亜沙美さん?」
「あらら。いいわね。亜沙美ちゃんはこんないい男と。私に分けて欲しいくらいだわ」
「お好きにどうぞ。」
そういうのが精一杯だった。
でもそんな高杉のアタックを受ける場所はパート先だけはなく、次のステージにも飛び火していき、思いがけない場所でも会うことになる…