笛の音 4.-19
「直樹っ……!」
まさかと思ったが、入口に触れただけで体が仰け反り――、確かに絶頂が来た。その最中に男茎が進んでくる。狭道を広げて進んでくる毎に、頂だと思っていた恍惚が更なる高みへ導かれていった。
「直樹っ……、やあっ……! ……直樹!」
直樹に何度も抱かれてきたのに、刹那ではない、断続的に続く絶頂をもたらされて、彼の名を呼んでも呼び足りなかった。両方の二の腕に強く爪を立ててしがみついたが、痛みに振り払われることなく、
「――愛してるよ。有紗さん」
「うああっ……」
麗しい言葉とともに子宮に直樹が来訪して、有紗はあまりの快楽に失神してしまいそうだった。しかし、気を失っては愛しい彼の存在を感じていられないから、必死に現し世に留まろうともがく。
「愛してる……。すごく」
覆いかぶさる直樹が繰り返し囁き、律動を始める。有紗は泣きじゃくって、彼に言われる度に頷いていた。「……聞きたい。有紗さん、言ってくれたこと……、ない」
もう爆発寸前だろうに、直樹は懸命に耐えて有紗を覗き込んできた。間近に迫った瞳には那珂川のほとりで花火を映した清らかさは無い。だがたまらなく愛おしい。
「……、お……、おいっ……!」
有紗は二の腕から手を離し、首に手を回すと、引き寄せて彼の髪に頬ずりをした。
「おいっ……、有紗っ……! なにをしてるっ!」
気がついたようだが、こちらのほうが大事だ。今は構っていられない。有紗は直樹の耳へ唇を押し付けながら、
「……愛してる、直樹……」
と「好き」ではない言葉を初めて直樹に伝えた。「直樹……、愛してるの。おねがい……、欲しい……」
「なにするんだっ! ……有紗っ! やめろおっ!!」
括りつけられたソファの上で暴れた信也が、ゴトゴトと床を鳴らして喚き散らしたが、直樹の腕がぎゅっと締まり、男茎が引かれていく。
「直樹っ……、いっぱい出してっ。愛してるって言って、いっぱい……!」
「愛してるよっ……、うっ、有紗さんっ……!!」
貫通するかと錯覚するほど奥に打ち入れられた男茎が、子宮の入口に密着したまま熱い畢竟を秘室へ注ぎ込んできた。肚の奥ではない、体じゅうに彼の奔流が染み渡っていく。空調が効かぬ部屋に満ちていた叔父の暴虐は、直樹の情熱で跡形もなかった。ずっと有紗は下肢を微震させて聖滴を注ぐ直樹の首筋に吸い付き、塩辛い彼の肌を味わって、愛情の証を微塵も逃すつもりはなかった。
「おお……、な、なんだお前は……、有紗っ! 有紗っ!!」
ソファで信也が発狂している。有紗と直樹は息を合わせて、お互いの体にキスをしながら身を起こした。まだ下腹を繋いだまま、額を擦ってお互いの唇を啄む。
「きもちいいね……」
「うん……」
「もうセフレなんかじゃないよね、わたし」
「ずっと前から違うよ」
「じゃ、なに?」
「……恋人?」
「なんか……、呼び方ダサいなぁ」
そんなことないよ、と言って直樹が傍らに落ちていたバスタオルを、有紗の体に巻きつけた。
「……ん?」
「あいつに見せたくない。……有紗さんを」
「そっか。……そうだね。見せちゃダメ」
そんなことより私を呼び捨てにしてくれるほうが先なのに。有紗は笑って、首を傾いで直樹に深くキスをした。タオルで肉体を隠してもまだ繋がっている。体の中では彼がまだ漲っていて、自分を深く突き刺してくれている。
「おいっ……、お前たちっ! 聞けっ、……聞けよぉっ!!」
拘束された上に再三無視される信也は、とにかく二人が自分を向いてくれるよう、悲痛な叫び声を上げた。
「あいつ、うるさいね」
眠った叔父の指紋を借りて、携帯からネットストレージに動画をアップロードし、叔父のメールアドレスから参照先を洋子に送った。叔母は今、どんな気持ちであの動画を見ているのだろう。七年も家の中で養女が淫虐に遭っていれば……、もしかしたら、叔母は気づいていたのかもしれない。だが、肚の中を覆い尽くす快楽の前には、叔母の破滅ですら瑣末事でしかなかった。
「ね、……またしたくなってきた。していい?」
有紗が足をベッドについて膝を立てて大胆に開くと、バスタオルが捲れて剥き出しになった股間が、自分以外の誰にも見えないように直樹が腰を押し出して隠してくれた。彼に支えられ、足を使って密合を上下させ始める。
「……有紗っ! お前、愛美が……、妹がどうなってもいいのかっ!?」
叔父が何をしたって、もう愛美はどうにもならない。恋人を交換したことで、愛美は有紗の庇護を必要としなくなった。明彦は愛美を必ず守ると言った。――愛美は、姉が義父に姦されていたことを知っているのだろうか。面と向かっては聞けなかったが、すでに明彦から聞いているのかもしれない。もしくは、いつか聞くのかもしれない。しかし明彦がいれば大丈夫だろう。
そして明彦は、叔父が企んだ悪事をコンプライアンスを司る部署にタレこんだ筈だ。愛美と通じてなお、叔父の指示通りに動いていると見せかけたのは、女神に対する最後の奉公、彼の言うところの「罪滅ぼし」だった。