笛の音 4.-13
憂えげな有紗の姿に、信也は美しいクビレを掴んで一息で腰を押し込んできた。通り道が軋んで広げられていく痛みは、いい歳をして漏らしていた先走りの粘液の滑りであまり感じられずに済んだ。
「ああっ……!」
体の奥まで先端が到達すると、せえの、で背を反らせる。
「……メチャクチャにされたの?」
有紗が声をかけると、愛美が戦慄した。姉と暮らしてきて、いかに大切に思われているか、愛美もよく知っている筈だ。その姉が、妹が嬲られたのではないか、と明彦へ敵意を向けるのを恐れている。
「ち、ちがう……」
だが有紗は必死に訂正しようとする愛美が愛らしくなってきて、真摯な形相を崩し、ふと笑ってみせた。
「愛美が自分で言ったんじゃん?」
有紗の腰を跨いで肩に掴まっている愛美の髪を二度、三度と撫でていくうち、姉にはもう激発の兆しは見られないと安心したのだろう、愛美の涙目が笑みの形に垂れていった。
「い、言った……」
「……なにがちがうの?」
「えっと……」
愛美は緊張の息を整えて、「……い、一回じゃない」
「じゃない?」
「も、森さんと会ったの……」
有紗が明彦を一瞥する。すると愛美は慌てて、
「わ、私から会いに行ったの……!」
と告げてきた。「も、森さんも落ち込ませちゃったの、私。私のせいだから……、私から、自分から会いに行ったの」
「……ほんと?」
背中の明彦に問うと、愛美が、
「ほんとに」
「愛美には聞いてないって」
と、ふきだした。「……それから?」
「わ、私が、悩み話した時、……も、森さんが、『じゃ、俺で練習してみる?』って言ってたの思い出して、……わ、私のせいだから、だから、その……、森さんを、な、慰めてあげるつもりで」
「最低だな、おい」
「……、ご、ごめんなさい……」
姉の罵言に悲声に暮れて、また泣き始めようとする愛美の頬に手を添えて、
「ちがうよ。最低なのはあいつ」
と、目線だけで明彦を窺った。
「ごめん」
明彦の謝罪が聞こえてくる。その一言で済ませられるかどうかは、これからの愛美次第だ。
「で? 慰めたら、なんでこうなっちゃうの?」
「……そ、その……」
「ん?」
「……」
俯いて黙った妹に、あはは、と意図的に声を出して笑ってやると、愛美はきょとんと目を見開いた顔を上げた。
「愛美……、まー、いくら仲良し姉妹ったってさ、この状況、かなり異常だと思う。……でもね、お姉ちゃん、全然怒ってないんだ。……それよりも」
笑うことで鼓舞したつもりだったが、いざその時になると声が震えた。「お姉ちゃんも、謝らなきゃいけない……、から」
「知ってるよ」
愛美も意図的に笑顔を作ったのだろう。優しい笑顔で有紗の目の前で頷いて見せた。「……知ってる」
驚愕しなかった。できなかった。愛美が有紗に告げながら、背後の明彦を見たからだ。確かに、明彦にとっては「仕返し」だったのだから、愛美に知らしめた上で奪うつもりだったのは当然だ。
「……やっぱ最低だな、こいつ」
「ちがうよ」
「え?」
「……も、森さんは、私のことを思って教えてくれたんだよ。……ねぇ、おねえちゃん、……さっきの話の続き、していい?」
奇妙に納得させてくる愛美の頷きに、有紗もゆっくりとした瞬きで頷き返し、
「……どうぞ?」
「えっと……、も、森さん、その……、アレすると、すごく気持ちよくなってくれたの。……なんか、私がすると、すごく、……感じてくれて。なんだか、赤ちゃんみたいに、可愛くて」
女神だと言われた自分と違う、愛美はどちらかというと天使と形容するとしっくりくる。
「ちょ、愛美。なんか言い方やだな」
苦笑しながらつっこんだ有紗だったが、赤らんだ愛美の顔を見ていると、真情を語っているのはよく伝わってきた。これは本気だ。
「ごめん……、エッチな言い方して。……でもね、嬉しかったの。すごく。いっぱい気持ちよくなってくれると、……私も気持ちよくなって」
「……なって?」
「また、して、って。お願いして、……浮気、しちゃったの。だめだって分かってるのに、やめられなくて、どうしよう、って思ってるのに……」
明彦の手淫の反応が鈍ったことに合点がいった。手でばかり扱かれる以上の快楽を、しかも天使が自分のために献身的に奉仕した上に、その華奢な体を与えてきたのでは無理もない。
「ミイラ取りがなんとか、ってやつ?」
「……まさに」
明彦に言うと、有紗が常に冗談めかして愛美と話していることに徐々に気分が晴れてきたのか、彼も少し笑った。
「でもね、やっぱり森さんとしちゃったあと、私、いつも泣いたの」
「……おっきいのがいたくて?」
「ちがうよっ」
愛美は即座に否定したが、それはそれで恥ずかしいのか耳の先に朱に染めて、「……おねえちゃんを裏切ってるんだもん。泣くよ。大好きなおねえちゃん、裏切ってるんだもん。……そしたら、……いつもいつも私が泣くから、森さんが……」
「おねえちゃんの方が先に裏切ってるよ、って?」
「うん……」愛美は頷き、「でもね、それ聞いても、おねえちゃんのこと、嫌いになれなかった」
「……なんで?」