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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。『借り事』-3

 そんな那緒に対して、確かに美闇が怒っている様子は無い。それどころか。
「いいのよ青柳さん、好きに使ってくれて。でもね……その巾着は大切な物だがから、きちんと返してくれるまで……そうねぇ、わたしも青柳さんの大切な物をお借りしておこうかしら」
 そう言って美闇もまた、那緒に微笑を投げ返すのだった。
「あたしの大切な物っ!?」
 どうやら那緒、人から借りる事に躊躇(ためらい)は無いが、他人に自分の物を貸すのは嫌いな様子である。訝(いぶか)し気に美闇を睨んで、露骨にも顔を顰(しか)めたりする。
 美闇が言った。
「青柳さんの元気をわたしに頂だい。そしたら何でも貸してあげる」
「なぁ〜んだ、そんな事か」
 どうやら那緒、余り友達の居ない美闇が、自分と親しく成りたくてそんな事を言い出したのだと解釈した様子である。つまり友達に成ってあげる代わりに、自分は彼女から無条件で物が借りられるのだと。
 そして自分が彼女に与えるものは元気、即(すなわ)ち、自分の元気な姿を彼女に見せること。
 恐らくは、彼女自身が余り目立たない存在だけに、自分の様な明るく元気な女の子に憧れるのだろう。そんな姿を美闇が見たがっているので有ろう。どうやらそう思って止まない。
「うんっ、いいよ! あたしが龍神さんを元気にしてあげる」
 那緒はそう言うと、先ほどとは打って変わり、満面の笑顔を美闇に向け、何気にウインクまでして見せると、そのまま教室を飛び出して、何処かへ行ってしまった。
 恐らくは隣のクラスの友人にでも、美闇から借りた巾着を見せびらかしに行ったのだろうと、誰もがそう思った。
「いいのかぁ龍神。あの巾着……大事な物(もん)なんだろ。戻ってこないかもしれないぞ!」
 そう言う男子生徒『望月 清二』の声を、美闇は首を振って遮ると。
「いいのよ。返してくれなければ、私も彼女の大切な物……絶対に返さないから」
 そんな事を、小声で呟いていた。


 当然、巾着(きんちゃく)は返ってこなかった。そればかりではない、小さな手鏡からアンティークな櫛、可愛い熊のイラスト入りバンダナまで、那緒は事あるごとに美闇の私物を取り上げて行った。
 勿論、美闇はそんな那緒に文句一つ言う事も無く、そのつど見せる彼女の元気な姿と笑顔を、満足そうな顔をして見送って居た。
 周りの皆は、そんな美闇が可哀相だと那緒に意見をした者もいたようだったが、決してイジメでも無し、美闇が否定しないので有ればと、いつしかそんな事が当たり前のような事と成り、誰も気に止めなくなって居た。
 無論、美闇が那緒に貸した品々が、再び美闇の元へと返って来る事は無かった。

 
 そんなある日。

「あれっ『是奈でゲンキッ!』の新刊、出たんだぁ。それおもしろいんだよねっ!」
 美闇が読んでいた小説の文庫本を見つけるなり、那緒がいつもの様に声を掛けて来た。
 美闇は読んでいた本を閉じると、いつもの様に、
「貸してあげましょうか」
 と、本を那緒に差し出す。
「ほ〜んと美闇には助かっちゃうなぁ。あたしが欲しいもの、いっつも持って来てくれるんだもん。感謝、感謝っ!」
 そんな事を言いながら、那緒も又、いつもの様に元気良く愛想を振り撒くと、美闇から借りた小説本をさっそく読んでみようとページを開いていた。
 その時である。
”ドサッ”
 突然、何の前触れ(まえぶれ)も無く、那緒は事切れたかのごとく床へと倒れ込んだ。
 それを見た美闇は慌てて。
「青柳さん! 青柳さん! しっかりしてっ! 青柳さんっ!!」
 うつ伏せに倒れたまま動かない那緒の肩を揺さぶり、必死で叫んでは見るが、那緒からは返事も無く、美闇が揺すり動かす以外には、彼女の身体はピクリとも動かなかった。


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