底辺からの出発-1
――ヒットだ。
依頼人の田所千鶴(たどころちづる)を見た瞬間、俺は心の中でガッツポーズを取った。
あまり広くない事務所の、さらに隅に追いやられたような所に置いてある応接スペース。
そこに居心地悪そうに座る彼女は、まるで見知らぬ所に連れて来られた子猫のようで、その初々しい様子が可愛らしくてたまらなかった。
はやる気持ちを押し隠すように、先ほど傳田が持ってきた申込書をバインダーを挟んだ俺は、ゆっくり彼女の元へ歩いていった。
「いらっしゃいませ、この度はご依頼をありがとうございました」
にっこり笑って現れた俺。さっきのスウェット姿はどこにもおらず、ビシッとスーツを身に纏ったいっぱしの社長風情がそこにあった。
そんな俺に、田所さんは慌ててソファーから立ち上がろうとするけれど、
「ああ、そのままで結構ですよ」
と、軽く制すると、バツが悪そうにもう一度座るのだった。
この挙動不審とも取れるソワソワした様子がまた、可愛らしい。
そんな彼女に目を細めながら、俺は向かいに座った。
正面から改めて田所さんを見るけれど、うん。
かなりの上玉だぜ、これは。
卵型の輪郭の顔は小さく、陶器のようにスベスベ白く。
小さな唇はみずみずしく潤み、緊張したその瞳は少し垂れてて愛らしくて。
清純派をそのまま絵に描いたような田所さんに、生唾が自然と込み上げてくるのだった。
こんな可愛い女の子が、ロスト・バージンを撮影して欲しい、だなんて。
――まったく、女は見た目じゃわからない。