知られざる思い-2
私は帯を解きシヅ子の手を自由にした。すると、彼女はいきなり私の身体を強く抱きしめ、震える声で私の名を大声で呼びながら涙をこぼし始めた。
いつもと違う、と感じた私は、急に今やってしまった行為を申し訳なく思い始め、彼女の身体を抱き返しながら耳元で言った。「ごめん。ごめんナサイ、シヅ子。ボク、乱暴だった」
シヅ子は大きくかぶりを振った「違う、違うんや、アル」
「え?」
長い時間が掛かってようやくシヅ子の荒い息が収まり、私は彼女の頬を濡らしていた涙を指で拭った。
それからシヅ子は重い口調で私に目を向けることなく話し始めた。
シヅ子は名古屋の施設で働いている間に、上司の男性と不倫してしまった。秋に開かれた宴会の後、キスされて、自分もその気になってそのままホテルに行き、肌を合わせてしまった、と。
不思議なことに私はその時は思いの外冷静でいられた。彼女の涙と苦しそうな声、そして話し終わった後自分を見つめる熱い瞳の輝きが私の心を安心させたのだった。もしその男性に心を奪われ、私と別れて欲しい、と言われていたなら、私はベッドをひっくり返して暴れだしていたかもしれない。そしてそのまま勢い余って彼女にも暴力をふるっていたかもしれない。しかし、私はその時の哀れな彼女の姿を見て、少なくとも怒りや憤りの感情が湧いてくることはなかった。
シヅ子はずっと泣きながらそれがつい最近まで続いていたことも、自分も相手に好意を寄せていたことも、その全てを正直に一生懸命話し続けた。そして最後にごめんなさい、と何度も繰り返して言い、それまでで一番激しく号泣した。
私はそんな彼女の髪を撫で、身体をただ抱いてやることしかできなかった。
シヅ子の気持ちが平静に戻ると、私は彼女の身体に指を這わせながら訊いた。
「その人とボクと、ドッチの方が感じる?」
えっ? と小さく叫んでシヅ子は私の目を見た。
「ドッチが燃える?」
「ア、アルだよ……」
「じゃあ、ドッチの物の方が大きい?」
「な、何? アルバート……。何でそないなこと……」シヅ子は眉間に軽く皺を寄せて私の目を見つめ続けていた。
「ねえ、ドッチが大きい?」
シヅ子は何も言わず、恥ずかしげに私の鼻の頭に人差し指を当てた。
私はどうしてこの時、おそらく一番辛い思いをしているに違いない本人であるシヅ子にそんな質問をしたのか、今考えても不思議でたまらない。彼女は私のそんな屈辱的な質問になんか答えたくなかったに決まっている。それでもたたみかけるように私は彼女にその男と自分とのセックスの時の違いを問い詰めていた。それはおそらくオスの野生の本能というやつだ。自分が彼女に最もふさわしいオスであることを確かめたかった。違うオスと交わっても、やっぱり自分がより強くてこのメスを屈服させる唯一のオスだと証明したかった。そういうことだと思う。
私は最後に訊いた。「ゴムは?」
シヅ子は出し抜けにぶるぶる震え始め、私の顔を見つめて唇を噛みしめた。
「避妊、シテた? ちゃんと」
シヅ子は嗚咽を漏らしながら首を大きく横に振った。そして私の背中に腕を回して胸に顔を埋め、また号泣した。