虚勢-1
朝になった。
昨日のことが嘘のように思えるくらい快晴だ。
あたりを見回す。
いるな・・・。
門の前に人影が見える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゾンビだ。
ゾンビか・・・。映画みたいだな。 現実なんだけどさ・・・。
そもそも、映画でゾンビと言ってるだけであって、ゾンビという呼び方は果たして正しいのだろうか・・。
死人。しびと・・・か。
なんてことを考えていると、警官の服装をした男がこちらに近づいてきた。
驚いたな・・・。
君、噛まれたのに大丈夫なのか?
そうだ・・・俺は噛まれた。 俺もあいつらのようになるはずだった。
あの後、もう一度検査という名目で呼び出されたのだが・・・。
異常がなかったというよりも、完治しているようだと言われた。
俺に耐性があるとは、つくづく幸運なのか不幸なのかわからない。
あの後医者たちが、会議を開いたみたいだが。
モルモットだろうな・・・確実に。
ワクチン開発の為に、利用されるだろう。
今朝、TVの緊急ニュースが流れ、現在のありさまが映し出された。
地獄だった。見渡す限り、黒煙が燃え上がり、押し寄せるゾンビの波に、人間たちが喰われていき、やがて死人になる。
ひどいニュース内容だった。TV番組の放送もこれで終わるという内容の放送が流れた。
チャンネルを変えてみても、どこもかしこも映らない。
全滅か・・・。 これで情報源はストップ。 自分の目で見るしかなくなった。
もちろんラジオもだめだった。昨日のたった一日だけでこれほどとは。
もはや、俺たちのような生き残りの集団が出来ていたとしても・・・。
君はこんな場所にいちゃいけない。 人類の希望になりえるのだから。
警官に言われ、苦笑してしまった。希望だって?ワクチン開発だって?
冗談じゃない。モルモットなんかごめんだ。
俺は無言でその場を後にした。
あれっきり情報が広まったのか。避難所となっている一室、で飲み物を選んでいると、横から食料を分けてくれたり、なにか手伝えることはないかと探していると、「いいからいいから」とお節介を焼かれる。人の目が変わっていた。
まるで神を信仰するかのような目。 集団ヒステリック・・・。
やばいな。悪い方向に転じてしまっている。しかもかなりのスピードで。
ここを出るしかない。
一見、大丈夫になように見えるが、秩序が崩壊した世界で集団ヒステリック現象に落ちいた人間の最後は、悲惨なものだろう。俺の身より、セリナが危ない。それに・・・あの黒髪の彼女・・・。弟も例外ではないだろう。
セリナに話をつけてみよう。 よし!・・・
コンコン セリナいるか?
あ、ゆう! いるよ!
はいるぞ?
ガチャ
ゆ・・ゆう!
なんだよ?
わわたしね・・・・。
ゆうの事好き! 大好き!
・・・わかってたよ。
俺も大好きだ。
嬉しい!
セリナ・・話あるんだけどいいか?
なに?言って!
あのな、俺ここを出ようと思う・・・。
どうして!? ここは物資も食料もあるんだよ? それに安全だし。
安全か・・。
セリナ、今から言う事をしっかり聞いてくれ。
ここは、今は安全でも安全じゃなくなる。集団ヒステリックが起きているんだ。周りの奴らの反応が異常なんだよ。
ここに、このままいたんじゃ、ゾンビには襲われなくても、人間に襲われる!
俺の言ってることがわかるな?
うん・・・。
それじゃ・・・
ゆう・・・
?
ざんねええええええんでした!!
!??
ゆうくん、逃がさないから!
私言ったよね?大好きだって。 あなたが、歳とって中年になっても、老人になっても、死んだ後もその後も、ずううううと
一緒だよ?離さない。スキスキスキスキスキスキスキスキ。
セリ・・・ナ?
ゴっ
ドサ
ふふ フフフ。
セリ・・・・・・・・・・・・。
目の前が暗くなっていった。