おそとでエッチ-2
「だけど……あっ、来たよ」
まだ何か言いたそうだった奈美は、人波を掻き分けるようにしてこちらへ走ってくる美山に満面の笑顔で手を振った。
「ごめんね、待たせたかな。これでも早めに来たつもりだったんだけど」
「いえ、わたしたちが早く来すぎちゃっただけで……すみません、お仕事の日に無理をお願いしちゃって」
息を弾ませながらも爽やかに笑う美山に、奈美が顔を赤くしながら答える。
出会ってから2週間。
奈美の美山への想いは日々つのるばかりらしい。
3日とあけずに彼の職場まで会いに行き、仕事の邪魔をしないようにとほんの5分か10分ほど話してすぐ帰ることの繰り返し。
好きにすればいいとは思うが、毎回付き合わされる桃子のほうは面倒くさくてたまらない。
『顔を見るだけで幸せ』
『声を聞いただけでもドキドキして心臓が壊れそう』
いまどき女子中学生でも言わないようなセリフを口にしては、どれだけ美山が自分にとって素敵な男性かということを桃子の部屋で毎日何時間でも話し続ける。
ユウは何やら共感しながらウンウンと聞いているが、桃子にはその恋心らしきものがよくわからなかった。
……そんなに気に入ったのなら、さっさと部屋にでもホテルにでも誘ってエッチしちゃえばいいのに。
そう言うと、奈美は『信じられない!』と怒りだす。
自分の気持ちはそういう汚らしいものとは違う、とかなんとか。
好きな人と気持ちイイことをするのは汚らしいことなのか。
女心は複雑である。
でも、よくよく聞いてみるとキスくらいはしてみたいらしい。
奈美の気持ちとそういった細かな要望をとりあえず美山に電話で伝えてみると、感心したような声が返ってきた。
『へえ、桃子ちゃんの友達とは思えないくらい純情だなあ……うん、僕でいいなら喜んでお相手させてもらうけど』
じゃあ、とりあえずデートでもしてみようか。
そういう流れで、今日は美山の仕事終わりに待ち合わせることになった。
歩きながらおしゃべりをしている間も、ファミレスで食事をしているときも、奈美のきらきらと輝く目には美山の姿しか映っていないようだった。
……ああ、ほんとに好きなんだなあ。
普段はメンズっぽい服ばかりでほとんど化粧もしないのに、しっかりメイクをして似合わないとかいってたワンピースまで着ちゃって。
なんだか、別人のように可愛らしく見える。
恋をすると綺麗になるって、こういうことなのか。
美山もまた上手に奈美のことを褒め、気分を盛り上げてやっている。
まだ恋人同士と呼ぶのにも微妙な関係のふたりの傍で、桃子はほんのりと漂う幸せな空気にほほえましさを感じていた。