〈無垢なる願い〉-9
『これで信じてくれたよなあ?あいつらは俺の意見には絶対に従う。間違いは有り得んぜ?』
「……分かったわ……」
奈々未は折れるしかない。
床に座り込んでいる玲奈を抱き起こすと、零れ落ちる涙を指で優しく拭い、その頬を両手で包んで微笑みを投げた。
「だ…ヒック…駄目よ……奈々未さん…ヒック……」
「大丈夫…私は大丈夫ですから、玲奈さんは気をつけて帰ってね……」
涙のつたう頬を包む両手と目の前にある顔は、その胸の内にある苦悩を隠さずに玲奈に伝えていた。
前髪が揺れる程に手はガタガタと震え、懸命に作り上げられた笑顔は、涙が今にも零れそうな程に痛々しく歪んでいた。
『玲奈ちゃん、お家に帰ってからも警察に言ったりしたら駄目だぞ?そんな事をしたら、奈々未お姉さんはシスターで居られなくなっちゃうからねえ?』
シスターをここまで追い詰めておきながら、オヤジ達は下劣にも茶化した笑いを浴びせてきた。
こんな奴らに奈々未は渡せない……。
奈々未が玲奈を想うように、玲奈もまた奈々未を想っていた……それは初めて対面した〈女性の敵〉に対する憎悪が共通していたのと、確かに生まれていた《絆》が、明確に二人の胸に感じられたからに他ならなかった……。
『提案ですが、せっかくシスターを好きに出来るのですから、私らとシスターとの“共通の思い出”を残す為に、撮影するというのはどうです?』
『おぉ!それは良い!さっそくカメラを用意してもらいましょう』
『もちろん常備してますよぉ。オイ、早く持ってこい』
唯一の出口である扉が開くと、部下達はカメラを抱えて運んで持ってきた。
それはハンディカメラというより、まさに機材と呼んだ方が正しいくらいに、肩で担がねばならないほど大きなカメラであった。
『ほほぉ〜…こりゃまた立派なカメラですなあ』
『ウッヒッヒッ!これならオマ〇コに生えた産毛も、ア〇ルの皺も鮮明に映るだろうねえ?』
『そりゃあもう!クッキリ高画質で記録出来ますよぉ』
「んぐぐッ…!?」
奈々未の狼狽えは誰の目にも明らかで、玲奈の頬から離れた両手は、震える唇を覆うように添えられた。
拘束台にカメラに変質者のオヤジ達……これだけ揃ったなら、これから始まる恥辱は奈々未の精神力など軽く凌駕してしまうだろう事は、想像に易い……。