その5-1
透明人間もダメ、幽体離脱もダメ。
他に方法は残っているだろうか・・・。
いや、まだ方法はある・・・・。
性転換薬。
女性になってしまえば女湯に堂々と入れるし、騒ぎを起こす心配もない。
透明人間薬、幽体離脱マシンをも完成させた博士の科学力を持ってすれば、性転換薬の開発などは朝飯前。
問題は効力の持続時間、女湯で急に男に戻っては大騒ぎになる、朝起きたら男、と言うのも騒ぎを引き起こすかもしれない。
持続時間を三日と定めて博士は薬を調合し、飲み干した。
仮眠から醒めて鏡に向かった博士は、長いこと櫛を入れていなかった髪をとかし始めた。
まるでそれがいつもの習慣であるかのように。
最後に床屋に行ってからも一年近く経つので、ショートカットの女性ほどの髪の長さはあるのだが・・・。
(あらやだ、髪に潤いがなくてまとまらないわ、お肌もざらざら・・・トリートメントとクリームが欲しいわ、あと、ファンデーションと口紅も要るわね・・・そうそう、お洋服も必要よ)
女性として必要なものを買い揃えにショッピングセンターへ向かった博士は、生まれて初めてショッピングを楽しいと感じた。
両手一杯の紙袋を抱えて研究室に戻った博士は真っ先に鏡の前へ、そして買って来た服をとっかえひっかえ着ては脱ぎ、コーディネートに余念がない、一通りの組み合わせを試して満足すると、今度は髪とお肌のお手入れを・・・。
元々痩せているところへたっぷり目のバストとヒップ、顔立ちそのものはあまり冴えないが、めったに外に出なかったせいで色白だから化粧は映える。
鏡に向かってちょっとしなを作ったポーズを決めて、博士はひとりごちる。
「うふっ・・・私って、まんざらでもないんじゃない?」
外見だけでなく内面まで女性化している、申し分のない成功だ。
女性としての身なりを整えた博士は三たび温泉に向かう。
もちろん透明人間騒ぎや幽体離脱騒ぎを起こした旅館は避けて・・・。
そしていそいそと女湯へ・・・今度は何の問題も起こさなかったが・・・。
女性になっている間、博士は女性の裸に一向に興味を持てないことに気付いた。
当然のことである、自分の裸にいちいち興奮していてはシャワーも浴びられない。
男でいる時男湯になぞ興味がないのと同じことだ。
興味の有無を調整できれば・・・。
しかし、さすがの博士も人の気持ちまでコントロールする術は持ち合わせていなかった。