進藤瀬奈として。-3
海斗がいつ瀬奈が捜索願を出されている人間か気付く者が現れるかと恐れながら生きていたのと同じく、瀬奈もまたいつ海斗から捜索願の話が出てくるのかを恐れながら生きていた。その事には海斗は気付いていた。しかし海斗は包み隠さずにそれが分かった時点で瀬奈には話そうと決めていた。黙っていても前には進まないからだ。問題をクリアせずに前へには進めない事は分かっている。それは前に進むと言うのではなくもがき続けるという事だからだ。本当に前に進むと言うのは何枚もある壁を一つ一つ乗り越えて行ってこそ初めて言える事だ。瀬奈の為にももがき続ける事は良くないと常々思っていた。海斗は車を運転しながら捜索願の事を絶対に言うぞ、言うぞと強く自分に言い聞かせながら家へと向かった。
家に帰るといつも通りの瀬奈に出迎えらる。お帰りのキス、手作りの料理、甘い時間…、正直結婚願望のない海斗にとって、その願望を持たせてくれたのが瀬奈。しかしその幸せを本来感じるのは自分ではない。絶対に言うぞと決めながらもなかなかタイミングがなく時間だけが過ぎて言った。
それを言えないままセックスまで終わらせてしまった。瀬奈とのセックスは非常に満たされるものであった。この喜びを手放したくない気持ちも強い。頭の中で葛藤しながらも、やはり満たされた瀬奈の肩に手を回しながら言った。
「瀬奈、言わなきゃならない事があるんだ。」
海斗がそう言うと瀬奈は何かを覚悟したような表情で海斗を見つめた。
「何かあったの…?」
答えは予想できているが、もしかしたら違うかもしれないと少し期待も含めて聞いた。しかし予想を裏切る事のない言葉が海斗の口から出てしまう。
「瀬奈に捜索願が出てるんだ。」
瀬奈は少し海斗の目を見据えた後、寂しそうに答えた。
「そうなんだ…。」
複雑だ。しかし自分が探されると知り少し安心した気持ちも生まれた。
「瀬奈はやっぱり心配されてるんだよ。じゃなきゃ捜索願なんて出さないよ。まだ生きていると信じて必死に探してるかもしれない。だから心の整理がついたらでいい。一回戻ってみたほうがいい。」
瀬奈は視線を外したまま暫く無言を貫いた。
「捜索願を出したのは…有樹?」
「ああ、旦那さんだ。」
「そう…」
しかし瀬奈は本当に自分を心配して夫が捜索願を出したのではない事を知っていた。自分の親の目を気にしての事だという事ぐらい分かる。本気で探してはいない事ぐらい瀬奈には分かるのだ。しかし海斗にはそれを言うのを止めた。余計な心配はかけたくないからだ。瀬奈は少し考えて答えた。
「海斗、お願い。もう少しだけ見逃して。いつまでも逃げていられない事は分かってる。そのうち家に自分から連絡する。だからもう少しここに居させて?」
「ああ。いいとも。勿論。」
「ありがとう。」
お互いに切ない選択であった。お互いを必要と感じている同士の苦渋の決断とも言える。いつかは別れなくてはならないと知りながらその時期を確定できないうやむやな決断をしなくてはならなかった事が切ない。本来一緒にいる事を選択してはいけないはずなのに…。
その日はお互い口数が少なかった。寝室に入り部屋を暗くして沈黙する二人。とてもじゃないがセックスするような雰囲気ではなかった。
そのまま目を閉じていると瀬奈が海斗の体に体を重ねて来た。
「抱いて…?」
瀬奈は海斗の返事を待たずに唇を重ね、そして海斗の体を下りペニスを咥えた。
「ああっ…」
海斗のペニスはすぐに反応した。自分のペニスを知り尽くした瀬奈のフェラチオは最高だ。テクニックだけではなく気持ちの感じるフェラチオに海斗は鼻息混じりの声が出てしまう。
(離れたくないよ…)
海斗は口に出してはいけない言葉を頭に浮かべた。それは瀬奈も同じだった。二人は切ないながらもお互いの体を一つにし、頂に達したのであった。