笛の音 3.-5
「う、うん」
直樹が膝を割って体を入れてくる。花唇も亀頭もお互いが漏らした期待でドロドロだった。待ち遠しく思っていた接触。入ってくる――、そう思っただけで有紗は気が早く膣壁が通り道を引き絞っていたが、
「……んっ、あっ、ま、待って……。……直樹、ゴム」
快楽に流されそうになる際で辛うじて言った。
「あ、ごめ、……つ、つける」
視界の外でゴソゴソとした音が終わるのを待つ。大洗から帰ってきた日、直樹の放出する畢竟を全て直接受け止めてしまった。――翌日処方してもらったアフターピルで恙無く消退出血が導かれたものの、思いの外高価で、これでは続けられないと思った。次の生理に合わせて低容量ピルを飲み始めるつもりだ。有紗が止めなければ直樹はまたそのまま入ってきただろう。可哀想だが、それまでの辛抱だ。
そう、この時間をこれからも続けるために。
コンドームを装着した直樹が再び有紗の脚の間へやってきた。押し当てられる。薄い樹脂たった一枚なのに、直樹から貰える心地良さが半減したように思えた。
「あ、有紗さんっ……」
それでも、ズブリ、と音がしたかと疑うほどに猛った直樹の亀頭に体を広げられていく。
「んぁっ……、な、直樹っ……、きもちいい?」
直樹も自分の生身の内部を知っている。樹脂越しの密合にがっかりしてはいまいかと心配になって、彼の神聖な体の硬みに体を広げられていくさなか息を喘がせて問うていた。
「……き、きもちいいよ、有紗さんっ……、……い、あ……、ご、ごめんっ」
ゆっくりと慈しみながら進めるつもりだったのだろうが、突如直樹が有紗の最奥まで慌ただしく突き込んできた。
「うあっ……!」
奥に触れられて身を縮めた有紗が直樹の興奮の塊を引き絞ると、蜜壁で抱きしめた中で男茎が激しく脈動して快楽の証が放たれていった。
(う……、……やっぱり、ゴム、ジャマだ……)
直樹がもたらす脈動に、そんな不服を過ぎらせながら、有紗は直樹の唇をまた吸った。しかし、挿れたままでずっと抱きしめていて欲しいのに、かつて習った教科書通りなのか、汁漏れしそうになる前に早々に根元を握って男茎を引き抜いていく。有紗はベッドサイドの目覚まし時計を見た。そろそろ帰る身支度をしなければならない。そこへ脚の間にふわりとした感触。直樹が優しい手でティッシュで下腹部を拭ってくれた。だが物足りなさが渦巻いていた有紗は身を起こすと、
「……もう、いいの?」
と問うた。
「……」
直樹もチラリと時計を見る。「……もう、時間ない、でしょ?」
すると有紗はヒップを摺ってベッドサイドに腰掛けると、頭を振って髪を解し、手を中に入れて馴染ませながら、
「そうだね、もう帰らなきゃ」
急に不機嫌になって、脱ぎ捨てていたショーツを手に取った。しっとりと重い。脚に通して身に貼りつかせると、ヒヤリとした感触と、目に飛び込んできたキャミソール胸元に色濃く残っている直樹の唾液のシミが、更に追い打ちを掛けるように有紗を苛立たせる。
「怒ったの……?」
「怒ってないよ? べつに誰かさんが、超早くても」
「ご、ごめん。だって、きもちよすぎて……」
早漏だってかまわなかった。現に身を起こす時に垣間見た直樹の男茎は、コンドームにたっぷり放出してもまだ真上を向いている。もっとできるのに、もう時間がない。
「明日、明後日は英会話でしょ?」
そしてあと少なくとも二日は会えない。立ち上がってスカートを脚に通しながら、有紗は直樹を見ずに素っ気なく言った。
「……うん」
「じゃ、愛美と仲良くしてね」
思わず言ってしまった。愛美ならばもっと時間を気にせず直樹に会えるのだろう。英会話に行く前に彼の腕の中に抱かれることだって可能だ。だめだ、惨めになるだけだ、と思っていても口をついて言葉が出てしまう。「そんだけ勃つんだったら、直ったのかもしれないよ? 今日あんまりしたら、明日、できなくなちゃうんじゃ――」
喉が絡んだ。奥歯を噛む。
「有紗さん……」
「下履いて。カッコ悪い、それ。ムード無い」
だが直樹は黙って有紗に近づいてくる。接近してくるに従って背中を向けて身を避けた有紗だったが、伸びてきた手を払うことはできなかった。直樹の手が肩を巡って包んでくる。
「……やめて。もう帰るから」
「いやだ。有紗さんのこと、好きにしていいんじゃなかったの?」
「んっ……」
耳朶をはまれる。捲れたキャミソールの脇腹に直樹の男茎の先が当たって体がヒクついた。「……時間ないから、またこんど……。……じゃ、じゃぁ、今度は、どうしたらいい? もっとエッチな下着にする? ……そうだ。東京で行った高校の制服、まだあると思うから持ってきてあげる」
有紗は身を捩りながら、軽口を叩くことで直樹を振り払おうとした。だが固く引き止められて腕の中から逃れることができない。こんなことをしていたら帰れなくなる。
「……そんなことしなくていい」