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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 3.-23

「……、……んー! なるほどっ」明彦は腕組みをして自分より背のある直樹の顔をまじまじと見た。そして愛美へ、「やっべぇ、愛美ちゃん。めちゃイケメンじゃん! やりやがったな!?」
 オーバーアクション気味に言うと、愛美はうんうんと大袈裟に頷いてみせ、
「どうだ、すげーだろ!」
 とはしゃいで明彦を笑わせる。
 有紗は笑い合う二人の隙に、すぐに見ることができなかった直樹の顔を漸く見た。視線を感じた直樹と目が合う。澄んだ瞳の持ち主のはずが、哀愁が凝縮した黒目で見つめられた。頬が少し震えている。
「……ってか、おねえちゃんもここに来る予定だったんだー?」
 愛美が急に有紗の方へ話を振ってきたから、肩を僅かに跳ねさせて、
「ううん、たまたま。なんかいい天気だし。出かけたいなって思ったから」
 微笑みを作り、愛美に、そして明彦に向けたあと、最後に直樹を見上げ、「明彦さん、急に誘っちゃった」
「……うふふ」
 愛美はわざとらしく笑い、「『明彦さん』ですってぇ……。おねえちゃん、いつのまにー?」
「結構前からそうだよ? ね?」
「あ、ああ。そうそう」
 菊門を姦された日からそう呼んでいる。明彦も、いつからだっけ、と気づいたようで、間の抜けた返事をした。
「愛美、暫くここにいるの?」
「うん? まだ着いたばかりだから、そのつもりだけど」
「私たち、車で来てるんだ。帰り、乗ってく?」
「えー、森さんの車?」
 そう言うと明彦は、いやいや、と手を振って、ベンツで来たことを教え、
「それがさー、愛美ちゃん、聞いてよ」
 と、有紗の運転が凄まじかった笑い話をし始める。愛美は高い声で涙を流さんばかりに笑っている。その間にもう一度直樹を見た。明彦を見ている。その目は、英会話の帰りに愛美が直樹と会う日、一人電車に揺られて家に帰る時にガラスへ映る自分の目に似ていた。
「てか、おねえちゃんでも、できないことあるんだねー? 森さんが合格、って言うまでおねえちゃんが運転する車には絶対乗らないでおこ」
「失礼だな」有紗は妹を睨み、「……ま、明彦さんが運転するから、今日の帰りは安心。帰る頃になったら電話して?」
「うん、わかったー。……あ、直くん、車で帰るのでもいい?」
「え、あ……」
 様々な思いに潰されていたのだろう。我に返ったように愛美を見下ろす直樹へ、
「あ、直樹くん、愛美と二人じゃないとイヤかな?」
 有紗は妹の彼氏をからかう姉となった。
「……いや、大丈夫です」
「そ、じゃ、遠慮しないでね」
 直樹の目が痛い。これを浴びに来たくせに。
 じゃあね、と明彦の手を取り、繋ぐ後ろ姿を見せながら二人を置いて歩き始めた。じゃ愛美ちゃん後でね、と明彦が手を振って前を向くと、
「……あれが愛美ちゃんがお熱になってる彼氏?」
 と小声で言った。有紗は前を向いたまま、
「そうです。カッコいいですよね?」
「まー、確かに超イケメンだね」
「そうなんです。なんかもう、アイドル並みっていうか。なんで愛美なんかに、って思っちゃいそう」
「……あれ? お姉さま、ちょっと変なこと考えてる?」
 そうですよ? 有紗は行く先を見つめたまま、口元だけ歪めて、
「かもしれませんねー、あれだけイケてると。……妬いちゃいます?」
「妬く」
 あはは、と声に出して笑った。視界に睫毛が揺れているのが見える。瞼がムズ痒い。
「……すみません、トイレに行っていいですか? たぶん、すっごい並んでて待たせちゃうと思います」
「ああ、もちろん。待ってる」
「何ならどこかの店見てて下さい」
 ふと見ると、離れた棟にゴルフ用品の店があった。「あそこ、見たいんじゃないんですか? 明彦さんと一緒に入っても、きっと私、つまんない顔しちゃって気つかわせそう」
「……じゃ、そうするよ。見つけられなかったら電話して」
「わかりました」
 明彦が手を振ってゴルフ用品の店に入るのを見届け、有紗は踵を返した。別の棟に向かったが建物には入らず、間に設けられた通路に入る。抜けていくと、ウッドデッキで作られた小さな港が開けた。人影はなかった。繋留されてユラユラ浮かぶヨットの前でメッセージを打ち込む。送信した後、ベンチに座って風に晒されながら、静かに漂う海を見つめていた。
 程なくしてウッドデッキを早く進む足音がした。振り返ると直樹が肩で息をしていた。
「……愛美に何て言って来たの?」
 直樹はすぐ傍に立ったまま、
「なんでこんなことするんだよ」
 有紗の問いには答えず、そう言った彼の眼は、哀しみの中に恨みが滲んでいて、有紗の背中をゾッと恐怖なのか悪寒なのか、それとも爽感なのか区別できない感覚が走った。
「だってさ」
 有紗は両手をベンチの縁に付いて両脚を伸ばすと、直樹の眼が見ていれられなくて海を眺めた。「……私は直樹の彼女知ってるけど、直樹は私の彼氏知らないから、見てみたいかなって思って」
 愛美から直樹と出かけると聞いて、『愛美とのデート、よろしくね。どこに行くの?』というメッセージを送った。直樹は律儀に場所を答えてきた。だから直樹が悪いのだ。明彦を見た直樹の表情を見てみたくて来た。しかし自身で予想していた通り、愛美がはしゃいで直樹に絡み付いている姿を見せられたのはたまらなく酷だった。本当に、何がしたかったのかわからない。


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