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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 3.-20

 物慣れたハンドル捌きで、左座席なのに右折も難なくこなしている。「どうしてもドライブしたかったんなら、俺、レンタカー借りたのに」
 有紗は腕組みして仏頂面で外を眺めた。明彦には拗ねているように見えているかもしれない。
 直樹と目黒での一夜を過ごして、次に二人で泊まる時にはどうしても旅行に行きたいと思った。静かな温泉旅館で、またあの愛しみに包まれたい。車の中では高校生の時二人で聴いた、当時流行っていた音楽をかけながら。
 そう夢想していたのに現実を突き付けられて、直樹は免許持ってるのかなと考えているうち、環状線に入った。一人で練習しなくて良かった。車線分離帯に橋桁が連続する高速道路とは思えない狭い道を、このスピードで走るなど、自分には百パーセント無理だ。
「でも、なんで横浜? 行きたいとこあんの?」
 肘掛けに身を凭せて片手で優雅に運転している明彦が問うてきた。
「……はい」
「どこ?」
「えっと……」
 有紗はスマホを取り出し、住所を調べ始めた。明彦が、えっ、という顔をする。
「ナビ、セットしないから行き方知ってんのかと思ってたんだけど」
「今、調べてますから」
「ちょ、もうすぐ分岐来ちゃうし。横羽? 湾岸?」
 スマホの画面を見ながらナビに入力しようとしたが、操作を受け付けない。なんでっ、と苛立った声を上げると、「……安全のために、走行中は操作できないようになってるんだ。市内行くなら横羽っぽいね」
 明彦は車線を維持しようとしたが、
「ベイブリッジ」
「なら湾岸線じゃん。あぶねー……」
 有紗の呟きを聞いて、分岐ゾーンに入っていた明彦はチラリと後ろを確認して素早く左車線に寄せる。「……ベイブリッジ行きたいの?」
「いえ、地図見たら行く途中に書いてあります……。あれですか?」
 前方に見え始めた吊り橋を指さしたが、
「いやいや、あれはどう見てもレインボーブリッジでしょ。まだだいぶ先だよ。空港も超えてないでしょ?」
 明彦が笑って、「有紗ちゃんて、あんまり道知らないんだね?」
 東京で車に乗せられるときは殆どが叔父に連れ回される時だ。道路のことを気にしていられない。東京にやってきて、山手線の地図は何となく憶えてはいるが、地下鉄の駅になると位置関係が殆どわからない。浜松町の展望台で不動前を探せたのも、今見ているのはどっちか明彦にいちいち聞いて回廊を案内してもらっただけだ。結局ビルに遮られて見ることはできなかったが。
「……方向オンチだって言いたいんですか?」
「そんなことない、って言いたいの?」
「東京から見て、神田が北だってことはわかりますよ。明彦さんといるとき愛美に会ったあの道をまっすぐです。橋を渡ると地下鉄の駅があります」
「なんで、今、神田?」
 あまりに明彦がからかってきたから、そうひねくれた。しかし、わけのわからない思いをさせてやりたかったのに、明彦は軽く笑っただけだった。「……あー、でもやっぱお台場で湾岸に入るよりも、横羽線走って生麦で逸れたほうが距離的には近かったかもしれない」
「えっ、遠回りしてるんですか?」
 お台場の景色を眺めていたが運転席の方をクルリと向いて、早く着きたいのに、と本気で明彦を睨んで非難しそうになったが、
「いや、湾岸線のほうが飛ばせるし、道も広いから空いてる。時間的には早いと思うけど」
 と聞いて呑み込み、安堵の溜息をつく。「……目的地教えてもらってないけど、もう聞かないで行くよ。その方が面白そうだし。だからちゃんとナビしてね。せめて高速降りる所は教えてよ?」
 ワガママな女だと明彦は嫌にならないのだろうか。そんなにもへつらって、手で握って腰を振って欲しいのだろうか。シートに身を沈ませて投げ出したクロップドパンツの脚を昂った目でチラチラ見られているような気がする。先を急いでいるくせに、有紗は横浜が近づくにつれて募ってくる苛立ちを黙って明彦を軽蔑することで紛らわせた。ピンクのサマーニットのメッシュの隙間からも明彦の情欲の視線が入り込んでくる気がして腕を組み、ずっと押し黙って外を眺めていた。
 トイレのために大黒パーキングエリアに寄った。麗らかな休日だったからドライブでの外出を愉しむ人々で混んでおり、女子トイレには行列ができていた。ここ辺りで待ってるよと言った明彦を置いて列に並ぶと、有紗はバッグから携帯を取り出して画面を見た。直樹からのメッセージもメールも無かった。愛美と一緒に居るのに送ってくるわけがないのは当然だ。だが分かっていても有紗は苛立ちが募り、この好天の下、愛美がニコニコとはしゃぎながら二の腕にしがみついて歩いている姿が頭に浮かんだ。浮かんだ像の二の腕を上の方へ追っていく。肩、首筋。しかし愛美に睦まじくくっつかれて直樹がどんな顔をしているのか想像できなかった。物憂げな顔で相手をしているなら、妹に対してなんて酷いことをしてくれてるんだと憤るが、楽しげな笑みで応えている姿も想像したくない。


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