寂しさの行方-4
ベッドの横に立った私の背後から、神村は何も言わずゆっくりとその身体に腕を回した。そして優しくきゅっと抱いた。私の身体はすでにどうしようもなく熱くなっていた。
しばらくして神村は耳元で囁いた。「シヅ子ちゃんの身体、とっても柔らかくて温かいね」
身体を振り向かせて神村と向き合った私は、泣きそうな顔でその背の高い男性の顔を見上げた。
「思ってた通り」神村は微笑みながら両頬を包み込んでまた唇を重ねてきた。私の唇は少し震えていた。
神村が口を離すと、私は焦ったように上着を脱ぎ、ブラウスのボタンに手を掛けた。すると神村は私のその手を押さえ、小さく首を横に振ると、小さな声で言った。「僕にやらせて」
そしてその大きな手がゆっくりとブラウスのボタンを上から順に外し始めた。
「素敵な色のブラウスだね」神村はまた小さな声で言った。「控えめだけどきれいな浅葱色」
この色には『浅葱色』という名がついているのか、初めて知った。そんなことを考えながら、じっと立ったまま、私は自分の薄い着衣が彼の手によって脱がされていくのに身を任せていた。
その淡い青緑色のブラウスがベッドの上にひらりと舞い降りた後、すぐに神村の手は私のスカートのホックを外した。それはするりと床に落ちた。彼はまた耳元で囁いた。「横におなり」
私は大きなベッドに横になり、穿いていた黒いパンストを足から抜いた。その間に神村もスーツを脱ぎ去り、ネクタイを外し、シャツと肌着を手際よく脱ぎ去った。
ベッドの上でランジェリー姿になった私の身体を見下ろしながら、自らも下着姿になった神村はまたひどく優しく微笑んだ「シヅ子ちゃん、きれいだよ」
神村がベッドに横になった私に覆い被さるように四つん這いで身体を重ね合わせ、また唇を重ねてきた。
私は目をぎゅっと閉じて夢中でその唇を吸った。それから何度も口を開いて、神村の温かな唇や舌の感触を味わった。神村もいつしかむさぼるように私の口を吸い、唇を舐め、舌を激しく出し入れして私のそれと絡ませていた。
濃厚なキスのたびに、神村の吐息のかぐわしく甘い香りが私の口から体中に広がる気がした。それは彼の飲んでいたウィスキーの香りだった。宴会の時に私が直接口にした時の強烈な刺激とは全く違う、香ばしく芳醇なその香りに私はうっとりと酔いしれていた。
神村はその行為を続けながら私の背中に腕を回し、ホックを外してするりとブラを腕から抜き取ると、大きく温かな手でふたつの膨らみを揉みしだき始めた。
んんっ、と呻きながら私はさらに激しく神村の唇を求めた、二人の唾液が下になった私の頬を伝って流れ落ちた。
私の身体は、もう燃え上がる程に熱くなっていた。重なり合い、脚を絡み合わせているその男性の身体も汗ばみ、熱く火照っていた。
二人はその行為だけに没頭していた。私の心は、この上司への仕事中の信頼感や尊敬の気持ちなどではない、ただ熱い今のこの瞬間を味わっていたいという貪欲な身体の要求に翻弄されていた。そして大阪にいる恋人アルバートへの思いすらも、その時の私の中からはすっかり消え去っていたのだった。