裏切りと凌辱の夜A & 新たな恋の始まり-7
「ええっ、美山さん? どうして?」
奈美が美山に惚れたらしいという話をすると、帰ってきたばかりのユウは飛びあがらんばかりに驚いた。
それはそうだと思う。
なにしろ桃子自身が一番驚いているのだから。
美山の名前を聞いた瞬間はこわばっていた顔も、事の顛末を話していくのにしたがってだんだんとほぐれ、最後にはとうとう笑い出した。
「なるほどね、僕のいきつけの店ってことになってるんだ。あんまり最近は行ってないけど」
「でしょ? ほんと適当なこと言うんだから」
「いや、でも嬉しいな」
ユウがにこにこしながら、上機嫌で抱きついてくる。
少し汗の匂いがした。
でも、この匂いは嫌いじゃない。
「え、なにが嬉しいの?」
「だって、美山さんは僕のこと桃子の彼氏って言ってくれたんでしょ? そういうの、すごくうれしい」
力が抜けるほど単純。
よし、僕たちにできることは協力してあげよう。
でも桃子は美山さんとふたりきりで会っちゃダメだよ。
そんなことを言うユウは、もうすっかり奈美を応援することに決めてしまったようだった。
まあ、いいけど。
「あ、カフェのバイトはどうなったの? 続けていけそう?」
「うんうん、まだ二回目だけどね。バイトの子は年下ばっかりだけど、みんなすごく優しいから何とかやっていけそうだよ」
まだ、お客さんの前に出るとビクビクしちゃって使いものにならないんだけど。
皿洗いから始めて、今日はミルクティーを作るところまで教えてもらったんだ。
透明のグラスにティーとミルクが綺麗に二層になるようにするのが、すごく難しくてね。
仕事の話をする顔は、いつもよりもさらに可愛らしく見えた。
いい子、いい子。
首に手をまわして髪をくしゃくしゃと撫でてやる。
「頑張ったね。ご褒美にまた口でしてあげようか?」
朝のことを思い出したのか、ユウの耳が真っ赤になる。
「い、いいよ。もう」
「あはは、照れてんの? いつでもしてあげるのに」
「だから、僕はそういうことのために桃子といるわけじゃ……あ、そういえばバイト先に桃子と同じ大学の子がいたよ。学年も同じじゃないかな」
「ふうん、知ってる子かな。男の子? 女の子?」
「女の子。たしか……スヤマさん? だったかな。そんな名前」
「須山……香苗?」
「ああ、たぶんそういう名前だったと思う」
知り合い?
賑やかで明るい子だったよ。
まだ話し続けているユウの腕の中で、桃子は指先がひんやりと冷たくなるのを感じていた。
(つづく)