裏切りと凌辱の夜-7
「……桃子、どうして? なんでそのときに相談してくれなかったの?」
汚物を吐き出すようにして桃子が話し終えた後、奈美は目を真っ赤にして泣いていた。
できるだけショックを与えないように、桃子の心情は省いて、実際に起きたことだけを話したつもりだったのに。
優しい、良い子だなと思う。
ユウと同じだ。
「だって、誰も信じてくれないと思ったから。奈美だって知ってるでしょ? 香苗のこと」
ちょっとドジなところはあるけど、無邪気で可愛らしい香苗。
みんなに愛されることを当然だと思っている女の子。
奈美は力なく肩を落とす。
「あの子、実は苦手だったんだよね。桃子の友達っていうから、挨拶くらいはしてたけど」
「わたしも苦手だったもん、最初は。タイプが違うっていうか、ね」
「で、その後どうなったの? そういえば、良也くんってもう学校辞めたって聞いたけど」
「そうなのかな。よく知らないんだ、もうあの子たちのことは忘れたいから」
「そっか。そうだよね……」
「やだ、もうずっと前の話なのに奈美が落ち込んでどうすんの! お腹すかない? ちょっと何か食べに行こうよ」
「あはは、ごめん。うん、行こう行こう!」
桃子が立ちあがると奈美もティッシュで涙をぬぐい、泣き笑いのような顔で立ちあがった。
この話には、まだ続きがある。
本当に忘れたいのは、この後の出来事かもしれない。
……さすがに、奈美には言えないけどね。
玄関のドアを開けながら、桃子は溢れ出してくる当時の記憶に軽い吐き気をおぼえた。
悪夢のような夜が明け、桃子は追い出されるようにして良也のアパートを出た。
その日以来、一度もサークルには顔を出していない。
良也とも、香苗とも、できるだけ接触しないようにした。
誤解されているなら、もうそのままでもかまわないと思ったからだ。
香苗はそれで溜飲をさげたらしく、しつこくつきまとうようなこともなくなった。
それから三ヶ月ほどが過ぎた頃、坂崎と出会った。
拷問にも似たプレイを愉しむあいまに、世間話のような調子で香苗のことを話した。
世の中にはこんな怖い女の子もいるんだよ、と冗談交じりに。
坂崎は少し考えるような表情になった後、桃子の顔を撫でながらため息をついた。
「それはひどい目に遭ったね。可哀そうに……その子たちはいま、どうしている?」
「どうって、普通に学校行ってるよ。前と同じで、楽しそうに」
「桃子はそれでいいのかい? 僕はそんな奴らを放っておくことに賛成できないな」
「だって……あんなアタマおかしい子、関わるだけ時間の無駄じゃない?」
「そんなことはない。動物だって、体で教えればきちんと理解できるようになるんだからね」
その彼女と男たちの名前を教えてくれるかな。
坂崎は極めて穏やかにそう言った。
(つづく)