夜の蜘蛛-8
「リョウツゥ?知り合いか?」
そこへ、ヴェルメまでやってきてジルは若干焦る。
「はい。始まりの泉でお会いしたジルさんです」
「そうか。知り合いが居るなら少し安心だ。ジルとやら、リョウツゥはこの通り可愛いし世間知らずな所がある。色々と教えてやってくれ」
「え?あ?」
「うんうん。そうだな。そうしよう。では、頼んだぞ」
1人でまくし立てて納得したヴェルメは、ジルの肩をバンバン叩いて去っていった。
「…………」
どうしよう?
ジルは唖然としたままヴェルメの背中を見送る。
「あ、あの」
「ぅわっ?!」
そこにかけられた控え目な声に、不覚にも驚いてしまったジルは尻尾をぶわっと逆立てた。
「きゃっ!ご、ごめんなさい」
リョウツゥは握っていたジルの尻尾を慌てて離す。
「ぃや、わり」
大袈裟に驚いてしまった自覚のあるジルは、ばつの悪い顔で尻尾をくねらせる。
「あの、ごめんなさい。ヴェルメさん、いつも自己完結なんです」
モゴモゴと言い訳したリョウツゥの言葉に、ジルはさっきのヴェルメを思い出した。
確かに、清々しいまでの自己完結人間だ。
「くくっ、そうだな」
あそこまでくると逆に笑える。
「で、ですから、ご迷惑でしょうし、私の事は、その、気にしないでください……ね?」
正直、そうしてくれるとジル的には助かるし都合が良い。
筈なのに。
「別に、迷惑じゃねぇよ?」
つい、こう答えてしまった。
「ぇ」
「その、何だ。挨拶とか、美味いもん貰ったからお裾分けとか、そういう近所付き合いは、迷惑じゃねぇって、意味だ」
本当ならそれさえも控えるべきなのだが。
(こ、これは情報収集の一貫だ。女ってのは噂話が好きだからなっ)
誰にともなく言い訳をしたジルは、バッと右手を出した。
「改めて。105号室のジルだ。よろしく」
リョウツゥはパアッと顔を輝かすと、ジルの右手を両手でキュッと握る。
「403号室に越してきたリョウツゥです。よろしくお願いします」
握り返してきた両手は、とても小さく暖かい温もりがあり、何となく心まで暖かくなったジルだった。
ー続くー