夜の蜘蛛-7
謝っていた小さな鳥は、もじもじと両手の指を弄りながらも赤の民を説得しようとしていた。
「あ、あの……ヴェルメさんのおっしゃる通りとは思うのですが……その……」
小さな鳥は言いきれずに黙ってしまう。
ヴェルメと呼ばれた赤の民は片眉を上げて、ひとつため息をつくと階段を上がり始めた。
「リョウツゥがそうしたいなら良い。しかし、必ず私に頼ってくれ」
「は、はい!ありがとうございます」
(ああ、そうそう。そんな名前だった)
2人の会話を盗み聞きしながらジルはぽんっと手の平を打つ。
どうやら小さな鳥のリョウツゥは仕事を見つけたらしい。
そして、あのヴェルメとかいう赤の民が雇い主なのだろう。
とりあえず見た感じは良い人物そうだし、一安心だ。
(……って、何を安心してるんだオレは……)
たった2回、たまたま会った少女がどうなろうが関係ないのに。
(ま、あれだ。出来るだけ会わねぇようにしねぇとな)
たまたま会った2回とも彼女に対して酷い事をしている。
わざとではないが、だからこそこっちも気分は良くない。
同じアパートに住むのだから会わない筈はないが、こっちが気をつけていれば大丈夫だろう。
と、思っていたのに。
ふにゃ
「んぎゃあっ」
いきなり尻尾を掴まれ、ジルは間抜けな悲鳴をあげた。
「なっ……」
「あ。やっぱり、ジルさん」
いったいいつの間に背後に居たのか、尻尾を掴んだ犯人はリョウツゥだった。
「青い尻尾が見えたので」
にこっと微笑まれ、不覚にも動揺してしまう。
「お、おぅ」
悲鳴を上げてしまった口を手で押さえたジルは、キョロキョロと視線をさ迷わせた。
「もしかして、ここに住んでるんですか?」
「ん、まぁ」
住んでいるというか、潜んでいるというか。
「私、今日、引っ越してきました。よろしくお願いします」
ぺこんと頭を下げたリョウツゥは、顔を上げるとちょこんと首を傾げた。
「あ、おぅ。こちらこそ」
(いや、ダメだろ。よろしくしちゃマズイだろ)
ジルの立場上、周りの人間と関わりを持ってはいけない。
いけないのだが、思わず応えてしまった。