夜の蜘蛛-2
「……罰を……受けるか死ぬか……どっちが良い?」
耳元に唇を寄せて囁く声にジルはギクリと身体を強張らせる。
「……罰で」
「だよねぇ?」
ジルの答えに女性は喉の奥で笑い、耳にフゥっと息を吹きかけた。
同時にズブリと爪が埋まり、ジルは目を見開く。
「あ゛ぐぅっう゛あっ」
「アハハ」
女性が楽しそうに傷を抉り、ぐちゃぐちゃと嫌な音と狂ったような笑い声が響いた。
痛みで目が霞み、泣きたくも無いのに涙が零れる。
嫌な汗が吹き出して濃厚な血の臭いと、女性の甘ったるい匂いに吐きそうだ。
「い゛ぁぐうぅ」
「あぁ、良い声だ。ぞくぞくするよ」
女性は異様な笑みを顔に張り付けて髪を掴んだ手に力を込める。
ブチブチと毛が抜けた音が頭に響いたが、腕の激痛のせいであまり痛くなかった。
(このっクソ女っ)
頭ではそう思っていても抵抗出来ない。
そもそも、ジルには「抵抗する」という考えさえ頭になかった。
ずぷ
やっと傷口から指が抜けて頭から手が離された。
ジルは傷口が盛大に開いた腕を抱え、ズルズルと床に倒れこむ。
「ァハハ、興奮してきた。もっと楽しませてよ」
女性は倒れたジルにのしかかり、傷口に食らいついた。
「ぎっ!!?」
裂けた肉片を噛んだ女性は首を振ってそれを引きちぎる。
「ぐうぅっ」
自分の肉が裂ける感覚と痛みにジルの視界が白く染まっていった。
「味も良いねぇ。気に入った」
ぐちゃぐちゃと音をたてて肉を咀嚼した女性はそれを飲み込むと、血まみれの唇でジルにキスする。
「っ」
鉄の味が口の中に広がり、白く霞んだ視界が赤く染まった。
(イ ヤ ダ)
頭の中で理性が悲鳴を上げるのに、本能が身体を支配する。
怪我をしていない方の腕を上げ、女性の後頭部を掴んだジルは噛みつく様にキスを返した。
女性の重なった口の端が上がった瞬間、素早い動きでジルの両肩を床に押し付け、衝撃で仰け反った首筋に噛みつく。
「ギャウ」
獣の鳴き声を上げたジルは、動きを止めた。
「フフフ」
しっかりと歯形のついた首筋を舐めた女性は、ジルに股がったまま自分の下着を破り取る。