私と俺の被加虐的スイッチ-10
あれから半月経った。
「今日は全国的に晴れ。関東では、昨日から梅雨明け宣言が出され、気温も上昇する見込みです。では、週末の天気を…」
私は今も、前と同じ様に一人で暮らしている。
変化は何一つ無い。身体に付いた痕も消えてしまった。カナエの思い出も何も無い。…いや、残っていたのが一つだけあった。乾燥機に忘れられていた、黒いボクサーパンツだ。
…あの雨の日に拾われたのは、本当は私だったのかもしれない。…
最近、そんな事を考えながらあの場所を通る。
日も延びて、雨だって降って無い。カナエに会える確証は何一つ無い。だけど、つい待ってしまう。一日に十五分くらい待ってしまう。
…なんでって?…それは、あの日に入ってしまったスイッチが原因だと思う。イヤラシイ雪下由依子になるスイッチが「自分に正直になれ」と脅すの。ほら、今も。
「…おい」
…そう、こんな風に呼ばれるの。そうして振り向き…って、またデジャブ…?
「……んなとこに突っ立って、拾って欲しいのか?」
…そこにはカナエがいた。相変わらず口の悪い、プリン頭の…
「そんな顔すんなって」
手を差し延べられる。夕暮れの道路脇。辺りはだいだい色で染まっている。車も人も往来が少なく静か。だからかも知れない。人目を気にする私から、カナエの腕の中に飛び込んでしまった。懐かしい思い出がフラッシュバックする。やっぱり、カナエの手は冷たくて…
拾われたのは、私なのかカナエなのか…。答えなんて全然見えない。
今はただ、無性に側に居たいだけ。
きっとお互い、好きなわけじゃない。ちょっと人とは違う、今だけの関係が特殊だから…惹かれ合っているに違いない。この先はきっと別々の道に歩いて行く。
…分かってる。これが一時の安らぎだって、分かってる。だから、この胸に飛び込んでしまった私は、覚悟しないといけない…。いつか来る別れに覚悟しないと…
「…今度は、帰れなんて言うなよ。」
抱き締められたまま、耳元でぼそっとカナエが呟く。見透かされた言葉にドキリとする。
「…拾うんだって、責任っつーもんが有るんだぞ。」
やっぱり、あの時の言葉を根に持ってるのかもしれない。カナエの子どもらしい一面が感じられ、思わず笑ってしまう。
「んだよ。反省してねぇのかよ?」
「…ううん。ちゃんと反省してる。ごめんね」
久しぶりに素直な気持ちが言葉になった。自分でも驚いてしまう。子どもの頃のピュアな自分みたいで…。
「由依子が責任持つんだったら、俺もちゃんと責任持ってやるよ。」
「え?」
意味が分からなくて、カナエの胸に埋めていた顔を上げる。……そこには悪戯小僧がいた。ニヤニヤと歯を出してる。悪ガキ、ってこう言う奴を言うんだ。うん。