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忘れ得ぬ夢〜浅葱色の恋物語〜
【女性向け 官能小説】

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老夫婦-3

 アルバートはまたにこにこ笑いながら、テーブルにほおづえをついた。
「ソウソウ」アルバートはいきなり身を乗り出し、シヅ子に顔を近づけた。
「どうしたん?」
「久しぶりに映画観に行きマセンカ?」
「映画?」
「そう。今やってる『Lovin' you』観たいデス」
 シヅ子はあからさまに呆れ顔をした。「アル、ようそんな若向けの甘甘ラブストーリー観たい思うな。自分の歳考えたらどやねん。わたしら映画館で浮いてまうがな」
 アルバートは口をとがらせた。「ラブストーリー、大好きなんデース」
「昔から好きやったな。若い頃もアルにはそんな映画にばっかり連れて行かれた気がするわ」
「ね、いいでショ?」
「ええで。ほな明日な。二丁目のシネコンやったらスペシャル・シルバー料金で安うて観られるで」
「Special Silver 料金?」
「二人合わせて130歳を越えたカップルなら半額やねん」
「それはラッキーですネ」アルバートは無邪気に笑った。

「アル、もしかしてあんた……」シヅ子は口角を上げて同じように身体を乗り出し、その夫と顔を突き合わせた。
「な、なんですネン」
「あんたがその映画、観たいんは、エッチなベッドシーンが見られるからやないんか? 『ラヴィン・ユー』には濃厚なエッチシーンがぎょうさんある言うてたで」
「と、とんでもナーイ」アルバートは赤くなって身を引いた。「ハニーはワタシを誤解してマスネ」
 ふふっと笑ってシヅ子も椅子に落ち着いた。
「わたしは好きやな。愛し合う二人が身体重ね合って熱くなるっちゅうのは。こっちまでなんや幸せな気分になるしな」
 アルバートは眉間の皺を深くした。「ハニー、言ってて恥ずかしくないデスカ?」
「ほっといてんか」シヅ子はまた顔を赤らめた。
 アルバートはにこにこしながら茶をすすった。
「アルにそないなエッチな映画に連れて行かれた夜は激しかったな」
「へ?」
「『へ?』やあれへん。映画とおんなじこと、わたしにさせてたやんか。押さえつけたりひっくり返したりして」
「ソウでしたっけカ?」
「そうや。ほんでそれからアルと映画観に行く時は覚悟してたんやで、エッチシーンになると、今夜もこないなことされるんかいな、ってな」
 アルバートはひどく申し訳なさそうな顔で言った。「シヅ子、イヤだったんデスカ?」
 シヅ子は照れたように笑って胸を押さえた。「イヤなわけあれへんやん」
「ワタシ、つい盛り上がってシマッテ……」
 アルバートは頭を掻いた。

「そやけど、」シヅ子が目を輝かせた。「わたしらがつき合い始めて一年ぐらいしたときやったか、一緒に見た強烈な映画、覚えとるか? アル」
「キョウレツ?」
「『バーニング・ラブ』やったかいな、あのタイトル」
「オオ! 覚えてマスとも。あのアブナイ恋の物語デスネ?」
「そや。彼氏がおんのに、違う男とこっそり会うて、激しく抱き合う、っちゅう話やったな」
「ソウソウ。でもその男も別の女性とデキてて、ヒロインが嫉妬に燃えて男を縛り上げてエッチするんデシタ」
「最高にドキドキしたで、あの映画」
「ワタシもデス。デモ、」アルバートは首を小さく傾けてシヅ子を見た。「ハニーはワタシに同じコトシテくれませんデシタね? あの夜」
「あんなことするわけないやろ!」シヅ子は真っ赤になった。「状況が全然違うやないか。それにわたし、あないなシュミあれへんから」
「ワタシはされてみたかったデス」アルバートは頬をほんのり赤くして頭をぽりぽりと掻いた。
「なに言うてんねん。ほんまに幾つになってもエッチやな、アル」
「オトコとはそういうものデス」

 茶を一口飲み、シヅ子は少し申し訳なさそうな顔をして、躊躇いがちに口を開いた。「あのな、わたしな、」
「どうシマシタ?」
「昨夜な……アルに……抱かれる夢、みてん」
「ホントですか?」アルバートはひどく嬉しそうに腰を浮かせた。
「そない嬉しい?」
「当たり前デス。それデハ今夜、超久しぶりに抱いてあげマショウ」
「何言うてんねん。アル、そんな元気あんのんか?」
「ケネスにドリンク剤買ってきてもらいマース」
「あほ」シヅ子は頬を染めて小さく言った。
「一ダースぐらい」
「どあほ!」


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