嫉妬と欲望の夜-1
……どうすんのよ、コレ。
首筋から鎖骨の下あたりにかけて、派手な紫色の跡が点々と残っている。
コンビニから戻ってきた後、大急ぎでシャワーを浴びた桃子は鏡の前で困り果てていた。
美山のせいだ。
腹が立つ。
今度会ったら、大事なアレを噛みちぎってやるから。
心の中でいくら悪態を吐いてみたところで、痣が薄くなるわけでもない。
いままでキスマークのような悪趣味なものをつけたがる男はいなかったから、対処の方法もわからなかった。
こんなものつけたままじゃ、ユウだけじゃなくて他の男にも会いにいけやしない。
ファンデーションか何かで隠せばいいのだろうか。
それとも、タオルでも巻いておく? 何日くらいで消えるものなのだろう。
濡れた髪を乾かしながら洗面所で逡巡していると、部屋のほうから何やら話し声が聞こえてきた。
小さなユウの声。
ぼそぼそとして、何を言っているのか聞き取りにくい。
「そっか、みんなは……うん、こっちは、まあ……うん……」
うつむいた横顔が、なんだかとても寂しそうに見えた。
どうやら珍しく誰かと電話しているらしいが、携帯電話を持つ手が震えている。
そんなに恐ろしい相手と会話しているのか。
もしかして、あの子いじめられてたりして。
なにしろ、大学生にもなって不登校になっちゃうくらいだし。
……なんでわざわざわたしの部屋にいるときにそういう電話しちゃうの。
放っておけないじゃない。
桃子は大判のバスタオルだけをぐるりと体に巻きつけ、まだ乾ききっていない髪もそのままにしてユウの傍に駆け寄った。