嫉妬と欲望の夜-2
「ユウ……」
ちらりと横目でこっちを見た後、ユウは左手の人差し指を自分の唇にあてた。
『静かに』
よくわからないままうなずいて見せると今度は左手で桃子を引き寄せ、腕の中に抱いたまま電話の向こうにいる相手と会話を続ける。
そうか。
うん、うん。
話しているのは相手ばかりで、ユウはただ相槌を打っているだけだった。
これだけ近くにいると、内容もよく聞こえてくる。
相手は男。
言葉のアクセントに地方独特の訛りがあった。
話の流れから察するに、どうやらユウの地元の友人らしい。
他愛のない中学か高校の思い出話、近況報告。
聞いていると眠くなってきそうなくらい、平和な話題。
嫌みや悪口のように思えるような話は、ひとつもでてこなかった。
なのに、どうしてユウがこんなにも心臓をバクバクさせて緊張しているのかわからない。
「うん、じゃあまた……」
桃子が聞き始めてから三十分が過ぎた頃、やっと通話が終わるのと同時にユウは携帯電話をフローリングの床に放り投げた。
ぎゅっとくっついたまま離れてくれないものだから、どういう表情をしているのか見えない。
仕方なくいつものように頭を撫でてみると、今度は両腕できつく抱きしめられた。
背骨が嫌な音を立て、胸が押し潰されそうになる。
いまだに力加減がわからないらしい。
「ちょっと、ユウ、苦しい! ねえ、いまのは友達?」
「友達っていうか……親友」
「し、親友? そのわりには全然楽しそうじゃなかったけど」
「僕なんかより、ずっと出来が良いヤツなんだ。中学も高校も一緒だった、勉強もスポーツも何やらせたって誰より上手で」
「えー、いいじゃない。自慢じゃないけどさ、いままで親友なんて呼べるほど仲良くなった子、ひとりもいないな」
「そうなんだ? 意外。桃子って友達づきあいも器用にやってそうだと思ってた」
「全然だよ! まあわたしのこといいから……で、なんであんなに嫌そうに電話してたの?」
嫌じゃないけど、すごく自分がダメに思えてきて苦しくなる。
ユウはぽつりとそう言った。