車の中の淫事-6
バタンとドアを閉めると、その音に反応してユウが顔をあげた。
桃子と、すぐ後ろにある車を見比べる。
伝わってくるのは困惑と不安。
ちらりと振り向くと、美山が人のよさそうな笑顔で車の中からユウに手を振っていた。
もう、馬鹿。
「ただいま。なんでこんなとこで立ってんの? ユウの家で待ってればよかったじゃない」
「おかえり……だって、ここにいたほうが帰ってきたらすぐに会えるかなって」
「まあいいけど……はやく来なさいよ」
手を握ってアパートの部屋に入ろうとしたのに、ユウはまだ美山の車を不審げに見ていた。
「あ、あの人……男の人、だよね? 桃子の」
遊び相手なのか、と聞きたいのだろう。
宙に浮いたままの言葉に、なぜだか胸が痛んだ。
話で聞いているだけなのと、実際に目にするのではショックの大きさが違う。
嘘などつく必要はない。
でも、どうしても本当のことを言う気になれなかった。
「あれは……あの人は、そういうんじゃないから。ほら、はやく」
「違うの? ほんとに?」
わかりやすく安心したような顔になる。
そうそう、違うの。
あの人とは何でもないの。
まるで大きな子供を相手にしているような気分だ。
こんないい加減な女の言葉ひとつで一喜一憂するなんて。
「しつこい。それより、晩御飯は? まだだったらどこかに買いに行く?」
「うん、行く。桃子も一緒に行こう」
つかんでいた指先を、ぎゅっと握り返してくる。
その顔はもうすっかり安心しきっていて、だから余計に罪悪感を煽られてしまう。
歩きながらもう一度だけそっと振り返ってみると、美山の車はもうどこかに消えていた。
(つづく)